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グローバル

グローバルビジネス・コミュニケーションの秘訣 アラブ世界編

グローバルビジネスを成功するためには、各国ビジネスコミュニケーションの特長を知っておくとスムーズに対応できます。経済産業省の技術支援の仕事で、ソフト開発プロジェクトに携わった経験をもとに、アラブ・中近東での仕事のやり方、コミュニケーションの秘訣の一端を、皆様方にご説明します。中近東は、良く言われるイスラム教徒の社会ですので、その事を踏まえ付き合って行く必要があります。

アラブ世界ビジネスのコミュニケーションの秘訣

日本政府の経済技術協力の一環でイラクでのソフト開発プロジェクトに携わった後、エンジニアリング会社にいた関係で、サウジやクエートのプラント建設のお手伝いをしたわずかな経験をもとに、アラブ社会での仕事のやり方、コミュニケーションの秘訣の一端を、皆様方にご紹介したいと思います。
アラブ世界は、北アフリカからアラビア半島にかけて良く言われる回教徒(イスラム教)の社会です。ただ永い、複雑な歴史を背景とした社会であり、宗教もイスラムもいくつかの流れがあり、またキリスト教徒もいれば、他の宗教の人達も沢山います。さらに、イスラエルのユダヤ人との争いの歴史があり、詳細には理解し得えない世界があります。
しかしアラブ世界では、絶対多数はイスラム教ですので、その習慣が仕事に反映されてくるのですが、一方で民族性もかなり影響して来ます。

宗教と習慣

石油省関係のソフト開発の仕事で、アラブ世界の初期の油田があるイラク北方の町で開発チームを率いましたが、このチームは大変な混成部隊で、エジプト人、パレスチナ人、シリア人、トルコマーニ(トルコ系アラブ人)、M系アラブ人、クルド人という構成でした。
そのため、国の違い、民族の違いから、摩擦が生じ、トラブルを生むことも度々ありました。共通しているのはイスラム教の信者であると言う事です。彼らはイスラムの教えと習慣に従い、行動が支配されるため、その事を良く理解して付き合って行く事が一番大切な事で、ここから多くの事を学びました。
アラブの人たちは、国は違ってもいつも聖地メッカを意識しており、方角、時間など全てがメッカから始まります。そして、日に何回かメッカの方角を向いて居住まいを正し、小さな絨毯の上でお祈りを捧げます。これは会議があろうが無かろうが関係ありません。従い我々もそのことを意識し、チームの行動予定に組み込んでおく必要があります。

ラマダンでの注意

イスラム教で教える苦行の習慣で、今は良く知られている断食の月、ラマダンです。この時期は、人により厳しさはやや異なるようではありますが、この時期、日中は全く食べ物、飲み物を口に出来ないため、事務所にでてきても集中力が落ちてしまい仕事の効率は最悪です。
また、実はこの時期一番海外旅行が増えます。そして、お金持ちほど家族総動員で海外へ脱出するのです。イスラムの教えで妊婦、病人、旅行者は断食をしなくて良い事になっているため、海外に殺到することになります。
という事で、この時期は人が居なくなるか、効率が悪くなるということで、プロジェクトの計画にしっかり織り込んでおくことがとても大切です。尚、イスラム暦は陰暦のため、西暦では月が少しづつ連れてきますので、毎年しっかり確認し計画に組み込む必要があります。
(お祈りもよりも厳しい習慣で、益々仕事への影響は大きく、プロジェクトとしては最悪の時期です。)

誰のせい?!

イスラムの世界は他の宗教の世界よりより忠実に生きていると思います。そして日々の生活、仕事などよりも、もっとも戒律に厳しく生きていると言えます。
例えば、会議があっても出てこないので、聞いてみるとお祈り中とか、ラマダンでメッカにいるとか様々ですが、良くあることです。でも何かあっても、怒る訳には行きません。知らなかったら、PMであるあなたのせいなのです。

IBM インシャ・アッラー(I)、ブックラ(B)、マレーシ(M)

よく良く言われますが、アラブ社会ではIBMという言葉があります。インシャ・アッラー(I)、ブックラ(B)、マレーシ(M)の頭文字をとったもので、彼らの考えを代表している言葉です。
インシャ・アッラーは正に唯一神であるアッラーの思し召しの元にと言う意味で、結果は全てアッラーの意思で決まると言う意味で使います。
ブックラは明日を意味しますが、今日物にならない場合、明日だという意味で使います。
またマレーシは気にするなと言う意味で、何かうまく行かない、不味い事があるとしてもマレーシで済んでしまいます。これらの言葉はごく普通に使われます。
日本人は、期日を守るのは自分の責任、何とかするのも自分の責任として、確約するとか、何とかすると思いますが、アラブ世界では努力はするが、結果はIBMなのです。しかしこれも彼らの宗教、慣習からでた言葉ですので、決していい加減という意味ではありません。しっかりやる人はやるので全てに当てはまる訳ではなく、でも結果がうまく行かなくても気にするな、神のご加護の御陰で、明日は何とかなるという一種前向きな考えとも思えます。
もちろんいい加減な人もいるので、日本人にとっては頭に血が上ることも多いですが、こちらも宗教、慣習の違いと理解し、柔軟に且つ周到に対応し、うまく纏めて行く事が大切です。特にスケジュールを管理する場合は、しっかり押さえて行かなければならない事です。

金曜日

アラブの世界では、金曜日がお休みで、日曜に相当します。そしてアラブのカレンダーでは金曜日が公共の休日になっています。ユダヤ教における「安息日」(土曜日)や、キリスト教における「主の日」(日曜日)とは本来は異なりますが、この日にモスクでイスラムについての説教があり、男性はモスクに行かなくてはいけないという習慣があります。
日本から行った直後は、この休日の違いが身に付かず、戸惑ったものですが、当然長く住んでいると慣れてしまいます。しかし日本へ電話するときなどは、曜日の感覚がずれていて、会社へ電話してもなかなか出ないなど、戸惑うこともありました。
特に昔は、なかなか電話がつながらないなど困難なことが良くありましたが、今は携帯も発達しこんな苦労はないと思います。

気候との戦い

日本の夏も暑いですが、とにかく中近東は暑いです。しかし湿度は低いので、夜はさわやかで、アラブの人たちは、夜に入ってから行動し、会社の人や家族で川沿いや公園の集会所の庭にあつまり会合をします。しかし仕事は日中ですので、そんな気楽な訳には行きません。
中近東でのプロジェクトは、ハードもソフトも暑さとの戦いです。事務所は必ず冷房が効いており、乾燥していますので、却って冷えすぎるくらいです。一番困るのは、暑い炎天下にいて汗をかき、そのまま事務所に入り、逆に寒くなり、暫くしてまた暑い外にでると行った必要があり、これが続くと体調を崩したりするので、要注意です。
イスラムの人は、これにラマダンが重なることもあるので、とにかく大変です。

食事と生活

イスラムでは、羊,牛と鳥は食べますが、豚は宗教上の理由から許されていません。また国によって異なりますが、戒律の厳しい所では料理にお酒を使う事も禁じています。
最初、現地の人達の会合で、お祝いだといって出された料理は子羊の丸焼きでした。料理が温かいうちは良かったのですが、冷めてくるとあまりなじみの無かった食材だったので、においが鼻につくようになり、好き嫌いは少い方でしたが、アラブの料理は苦手の部類になってしまいました。
この時は、まだアラブ世界の習慣、考えが馴染めなかったため、この食生活の違いから全てが合わなくなってしまった事がありました。しかしある程度の時間をへて、アラブの人達の考え方、習慣が理解出来るようになると、不思議とここでの食事をおいしく感じられるようになり、会合でも時を忘れて夜遅く迄、付き合う事が出来るようになりました。
やはり、現地に馴染み仕事を楽しくこなすためには、そこでの生活や考え、つまりそこの人々そのものを理解する事が一番大切なことだと痛感させられました。
実は、たまたまアラブの世界での話になりましたが、これはどこでも当てはまることで、例えば日本でも同じ事はあると思います。この事を理解すると、どこの国の人でも、うまくお付き合いができるのではないかと思っています。

中近東全体、アラブ世界も同様で、これを一言で語る事は困難です。ここにご紹介した内容は、僅かな経験から感じた事を書き連ねましたが、何かの参加になれば幸いです。

豊田 稔 氏
豊田 稔 氏
マネージメントアドバイザー
東洋エンジニアリング、ソフトバンク・クリエイティブを経て、現在はCreema株式会社などの複数の中小企業やプロジェクト組織のマネージメントアドバイザーを担当。エンジニアリング、プロジェクト管理に関するテーマであれば業種に拘らず何でも引き受けます。タブレットやスマートフォンが普及するなか、マイコン制御や装置との一体化した仕組みに興味があり、最近では農業や介護の世界への展開に、取り組みたいと考え、準備を進めています。