グローバルビジネス・コミュニケーションの秘訣 イギリス編
グローバルビジネスを成功するためには、各地域、各国の歴史文化ならびに社会構造を理解しておくとスムーズに対応できます。専門エンジニアリング会社在籍中に、日本企業のイギリス進出案件プロジェクトに携わった経験をもとに、イギリス圏での仕事のやり方、コミュニケーションの秘訣の一端を紹介致します。
大連合国家イギリス
正式な名称は、イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドを総称してグレートブリテン及び北アイルランド連合王国(グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国、英: United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)と呼ばれます。サッカーやラグビーでもご存じの通り、4つの国が別々の代表チームを派遣しています。ビジネスにおいても4つの国による大きな違いはなく、4つの王国からなる連合国家そのものと言えます。
元々独立心の強い王国が集まって一つの国として成立し、現在に至った長い歴史は、単一民族である日本人からは簡単に理解出来ない面が多々あります。その顕著な面が契約で成り立っている社会であると言う所です。しかも決して日本のようにフェアーな契約社会ではないという点がイギリス圏でビジネスに携わる際に最も注意しなければならないことです。
以下にどのような面でフェアーでないかと言ういくつかの事例を紹介します。
狐と狸の契約社会
近代の歴史を翻ると、イギリスは世界中に足をのばし植民地支配をしてきました。日常生活では、フレンドリーでとても社交的な交流が多くあり楽しく過ごせますが、仕事に携わる場合は、植民地政策の歴史があることを頭に入れておいたほうが良いと思います。
大英博物館に入ると、エジプトをはじめ中東の国々の歴史的な品々が陳列されています。異国の文化財を当然のように大英博物館に展示している状況は、少なからずイギリス国家の支配の歴史であり、世界を支配した民族の慣習そのもので、それは商慣習としても大きく影響していると思います。
ビジネスにおいて注意することは、契約等を結ぶ際に十分に契約内容を精査することが必要です。全ては彼らが支配出来る有利な条件が裏に隠れており、信頼を重んじる日本人には、想像しがたい目論見がなされている事を考えておくべきです。
日本人は疑うことをしません、信頼すれば、それを返してくれると思っています。しかしそれは通じません。そのため、こちらも表面に出しては行けませんが、対処のための布石や予備予算を取っておくことが重要です。一種狐と狸にならないと生きては行けない社会でもあります。
社会の特性と法務の重要性
社会構造を日本と比べた場合、日本国内のビジネスで当たり前のように契約しているランプサム請負契約が成り立ちにくい環境があります。ランプサムという概念は、例えばこの図面の工場建設を見積10億円、工期6カ月で請負という考え方です。
日本企業は仕様変更が多少あっても期間内予算内で納める努力をします。日本企業は、正社員化が進んでおり仕様変更や追加仕様を企業努力で吸収する体質がありますが、イギリスの建設業のワーカーは、案件毎の日雇要員が主力となります。日本では品質が高く、効率よく仕事を進めようとしますが、イギリスでは品質を高く要求すると時間もコストもかかる事になります。特に建設作業で規模が大きくなるほど、当たり前に変更や追加が発生し、費用の追加請求や期間延長の対策に苦慮することとなります。
これに対処するためには、実作業に入る前に極力不確定要素を排除しておくことです。さらに、追加作業は別の会社で契約するなど業者1社に全てを任せないなど、いざとなったら代替手段を取れるような安全弁を設けておくことが重要です。
最悪の場合、ある特定業者を排除しても全体の工期に影響しない体制やスケジュールが、契約面も含め段取り出来れば、安心してプロジェクトを進めることが出来ます。そのためにはプロジェクトの体制の中に、契約のスペシャリストを加えておく必要があります。
PMはすべてを把握はできませんが、この社会の特性を理解していれば有能な契約法務の専門家を準備段階から加え、プロジェクトを進めておくのが最良の策です。
契約が守られない訴訟社会
イギリスは訴訟社会であると言います。
私がイギリスに滞在していたときに経験したことですが、雇っていたイギリス人男性から車を購入した女性がいましたが、購入後数日で車が故障しました。2人は、別の車に同乗して裁判所に出かけたそうです。それほど裁判ということに、一般の人も慣れているので、これも長い歴史から生まれたものだと思います。
建設の現場でも同様で、担当した工場建設で仕様変更が発生しましたが、工事がある程度進んだ時点で建設業者が突然契約を解消したいと申出てきました。結果として契約条件を変更し再契約を余儀なくされました。訴訟が当たり前の風土なので、契約自体が守られなくなる事にも注意が必要です。
この対処は、“目には目を”で“告訴には法務”で対応するしかないですが、プロジェクト的には悠長に長い裁判に付き合っている余裕もなく、なかなかこれと言った良い方法がありません。
訴訟が起こることも想定し、代替可能な業者を複数抱えてプロジェクト遂行するとか、訴訟が起こった場合の対応部隊を用意し、プロジェクトメンバーが訴訟対応に労力をかけないで工事を完了させることに注力できるよう手を打っておくことが大切です。
しかし、一方で法律的な戦いも合わせて進めないと完敗となりかねないので、ここでも表と裏の準備と粘り強い実行力が必要です。
以上のように私は建設工事で、1年ほどウェールズにて、日本企業がウェールズに工場建設するお手伝いをエンジニアリング会社として遂行しました。結果として、イギリス圏の歴史文化や社会構造と日本企業の仕事の進め方の違いにより大きな苦労を伴いましたが、本掲載が今後の皆さまの活動において何らかの参考になれば幸いです。