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コラム | BE:YOND 2025 セッションレポート「日本の製造業DXで足りないものとは?SIerから見た現在地と展望」| {{ site_settings.logo_alt }}(複製)(複製)

作成者: ビジネスエンジニアリング(株)|Apr 14, 2025 7:28:09 AM

講演者
日鉄ソリューションズ株式会社
産業ソリューション事業本部 イノベーティブソリューション統括センター 所長
長谷川 淳 氏

株式会社日立ソリューションズ
執行役員 産業イノベーション事業部 事業部長
大池 徹 氏

富士通株式会社
グローバルビジネスアプリケーション事業本部 本部長
桐生 卓 氏

キヤノンITソリューションズ株式会社
執行役員 製造ソリューション事業部 事業部長
岩男 公秀 氏

ビジネスエンジニアリング株式会社
常務取締役 プロダクト事業本部長
佐藤 雄祐

講演タイトル
「システムインテグレーターのキーマンから見た日本の製造業DX」

顧客とともにDXの実現に取り組むシステムインテグレーター(SIer)は、日本の特に製造業におけるDXの現在地をどう捉え、どのような可能性を見ているのか?そしてDXを前進させるために、SIerが担う役割とは?2025年3月6日にビジネスエンジニアリング(B-EN-G)主催の年次イベント「BE:YOND 2025」で語られたKEYNOTE3の内容を踏まえ、製造業DXの推進に重要な観点を紹介する。

データのサイロ化がDXを妨げている

BE:YOND 2025の後半に開催された基調講演(KEYNOTE3)では、日本を代表するSIer4社から、製造業セクターやソリューションの統括責任者を招き、SIerの視点から製造業のデジタル化の現状や、DXの未来について深掘りした。

ファシリテーターを務めたビジネスエンジニアリング株式会社 常務取締役 プロダクト事業本部長の佐藤 雄祐はまず「ERPといった業務システムの場合、業務プロセス中心で改革を考えることも大切ですが、もう1つ、今後を見据えてデータを踏まえながらお話をいただきたいと思います」とした上で、1つめのテーマである「製造業DXに対する認識」をパネラーに尋ねた。

日鉄ソリューションズ株式会社 産業ソリューション事業本部 イノベーティブソリューション統括センター所長の長谷川 淳氏は、製造業DXをマクロな視点から分析し、「失われた30年」の主な要因として中国の工業化とIT化を挙げた。

長谷川氏の指摘する「中国の工業化」とは、日本企業が労働力不足を補うため生産拠点を中国へ移転した結果、豊富で安価な労働力を活用できたため日本人の賃金上昇が抑制され、デフレの長期化につながったというものだ。

もう1つの「IT化」とは、日本のGDPに占めるIT投資率(約3%)は米国(約4%)と大差ないにもかかわらず、GDP自体の差が拡大しているため、IT投資の絶対額の差が開いてしまっている。加えて、日本は「守りのIT投資」が中心であり、成長に結びついていないという分析である。

SIerビジネスの視点からは、「1990年代からコスト削減を目的に中国やベトナムなどの人材を活用してオフショア開発をしてきたが、コスト削減が主目的だったため視野が狭く視座も低くなり、個別最適なシステムが大量に生産されてきました」と長谷川氏は述べた。その上で、製造業が取り組むべき主要なチャレンジとして、①個別最適システムによるデータのサイロ化の解消、②守りから攻めのIT投資への転換によるデータ活用を通じた収益力向上、③データドリブンによる高度な意思決定の促進を妨げている、組織文化の変革、の3点を挙げた。

また、富士通株式会社 グローバルビジネスアプリケーション事業本部 本部長の桐生卓氏は、社会課題の解決を目指す「Fujitsu Uvance」ブランド事業において、SAPやSalesforce、ServiceNowなどの基盤製品を取り扱っている背景として、「日本ではまだERPが十分に活用されていないため、データドリブン化やプロセス連携が進まず、個別最適が横行している」と説明する。

90年代後半から約10年周期で訪れたERPブームでは、多くの企業が個別最適なERPを構築した結果、サブシステム間をバケツリレー式に連携させる状態に陥ってしまい、DXが前進しないことが課題となっているのだ。富士通自身も例外ではなく、全世界のERPシステム統合プロジェクトを進行中であることを紹介した。

日本の製造業DXには明るい傾向が見られる

キヤノンITソリューションズ株式会社執行役員(製造・流通ソリューション事業部門) 製造ソリューション事業部 事業部長の岩男 公秀氏は、製造業DXについて顧客の声を聞く中で、変革に向けて進んでいるものの「まだ道半ば」であるとの認識を示した。ただし、DXが「単なるデジタル化」から「トランスフォーメーション」や「ビジネスイノベーション」へとシフトしつつあると話す。

同社は2018年の経産省DXレポート発表から5年が経過したことを受け、昨年度600名の国内事業会社の経営層やマネジメント層にアンケート調査を実施。その結果、DXの目的が当初の「業務効率化・生産性の向上」から「ビジネスモデル変革」や「新たな製品・サービス・ビジネスの創出」へと変化しているとしつつも、まだ「マインドの変革」段階にとどまっている部分もあると岩男氏は指摘した。そしてこうした変革を推進するには「着実に成果を生み出す取り組み」と、仕組みの構築が必要と強調する。

「最近は基幹業務システムを刷新してデータを有機的に結合し、事業基盤を構築しようとする顧客が増加しています。その流れからか、B-EN-Gの提供する「mcframe 7」の引き合いが近年非常に多くなっています」(岩男氏)

また、株式会社日立ソリューションズ 執行役員 産業イノベーション事業部 事業部長の大池 徹氏は、かつてシンガポールでSIの仕事を経験したことを踏まえ、日本と海外の製造業の違いについて言及した。特に海外の製造業顧客は非常にスピードを重視し、新設工場にシステムを導入する際は、システムに合わせてプロセスを組み立て、すぐにデジタルを活用する姿勢が印象的だったと振り返った。

一方、日本へ帰国後に顧客の話を聞くと、「システムに合わせることが難しい」という声が多かったという。「Fit to Standard」と言いながらも取引先ごとに異なる対応が必要など、非常に緻密なオペレーションを人間系中心で実現している特徴があるためだ。

「しかし、これは日本人のサービス精神から来る、高いサービスレベル維持のために必要な仕組みであり、これまでネガティブに捉えられていましたが、今後は強みになる可能性があると思っています」(大池氏)

顧客が求めるITベンダーの役割が変化

登壇者による発言が一巡したところで、その内容を踏まえ、佐藤が話を深掘りしていった。まずは桐生氏に、富士通自身のDXを間近で見て実感する難しさと面白さについて尋ねた。

桐生氏は、「各拠点のERPやデータモデルの違いが大きな課題になっています」と説明。富士通では現在、異なるシステム間のデータを読み替えるためのレイヤーを設け、「OneData」と呼ばれるデータ活用基盤に蓄積している。しかし、出自の異なるシステムからデータを集めているため、同じ切り口でデータを見ようとしても、元データが異なる意味を持っていたり、数値にずれが生じたりする問題も少なくない。特に高度な分析を行えば行うほど、基盤部分の見直しが必要になることを実感しているという。

桐生氏は「こうした課題を根本的に解決するため、富士通では現在あるシステムを4分の1まで大幅に削減し、データの定義などを標準化した上で分析を進めようとしています」と抜本的な改革を推進中であると述べた。

続いて佐藤は、先ほど紹介のあったキヤノンITソリューションズのアンケート調査に触れ、顧客と接する中での見解を岩男氏に求めた。

岩男氏は、「DXの目的がトランスフォーメーションやビジネスイノベーションへシフトしている一方で、経営層から事業部門、現場に至る各レイヤーでまだ多くの課題が残されています」と指摘し、「特にDX推進における『リーダーシップを誰が取るのか』という責任所在の問題や『人材の問題』が依然として大きな壁になっています」と説明した。

同社の顧客調査によると、顧客がITベンダーに求めているのは「お客様を理解しながらDXに関する専門性を発揮し、ビジネスイノベーションを推進する知見・提言力を発揮する」ことで、単なるIT技術の提供者ではなく、ビジネスパートナーとしての役割が強く期待されているという。この変化に対応するため、同社では「共想共創」を掲げ、顧客と未来を見据えて協働するアプローチを強化している。

「マインドチェンジは進みつつあるものの課題は山積みである現状において、顕在化している課題への対応だけでなく、『潜在化している課題をいかに顕在化させていくか』という点に注力し、我々自身も顧客とともに学び、成長する姿勢を大切にしたいです」(岩男氏)

「海外から日本を見る」ように視点を転換すべき

ここから佐藤は、海外と比較しての違いや注意点について長谷川氏と大池氏に質問を行った。

長谷川氏は、最近のドイツやインドへの訪問から得た知見を共有。これまでの日本企業の海外展開では「日本流のシステム開発」や「日本でモデルを作って海外にロールアウト」するパターンが一般的だったが、現在はその流れが大きく変わりつつあるという。

特にグローバル製造業では、インドなどに「グローバルケイパビリティセンター」を設置し、グローバルのベストプラクティスを先にテンプレート化する戦略が増加している。この手法の目的は短工期での開発実現やグローバル標準の確立にあり、「グローバルOne」として作成したシステムやプロセスを、逆に日本にロールインするアプローチが増えていると説明した。

「日鉄ソリューションズは日本国内中心の事業展開をしていますが、いつまでも日本から外を見ているようでは厳しいという危機感を持っています。顧客の思考もそのように変わっていますので、『海外から日本を見る』視点への転換が必要だと強く感じています」(長谷川氏)

続いて大池氏は、長谷川氏の意見に同意し、「グローバルでものごとを見るケースが増えている」と話した上で、ベトナムの工場において関係者がキックオフに集まった際のエピソードを紹介した。プロジェクトオーナーが全参加者にプロジェクト憲章を守る念書を書かせた徹底ぶりと、参画意識とオーナーシップの高さ、そして「従業員の方々とITシステムと業務プロセスがバラバラでも、それをまとめることも含めて自分たちの仕事だ」という意識の高さが印象的だったと振り返る。

一方で日本企業では、いわゆるセクショナリズムが強く、営業・生産・保守・管理部門などの縦割り組織が課題になっていると指摘する。しかし最近では、顧客接点であるCRMから保守システムまでエンドツーエンドで一貫してつながるシステムの事例が増加しており、ITがさまざまな業務プロセスの「ハブ」になる可能性が高まっていると述べた。

大池氏は、この変化を踏まえ、SIerとしては顧客業務の全てを理解することは難しいものの、「お客様によく話をしながら、ワンチームとしてシステム構築に取り組み、日本人が苦手だと言われる全体最適をめざしたシステム作りを通じて、顧客やパッケージベンダーとともに日本をよくしていきたいです」と思いを表明した。

DXを進めるためには「経営者のリーダーシップ」と「ワンチーム」が重要

ここでディスカッションのテーマが「DXを進めるために」へと移り、佐藤は各登壇者それぞれの考えを聞いた。

大池氏は、顧客から受領したRFPに「AI」「DX」というキーワードが頻出するものの、「何を作ったらいいのか」が明確でないケースが多いという現状を指摘した。

そして「特に日本では、ベンダー側とユーザー側の対立関係が強い傾向があります。岩男氏が言及した『ワンチーム』でのシステム構築というマインドチェンジが不可欠だと強く思っています」とし、この関係性の変革によって、日本のIT・DX領域に新たな展望が開けるとの期待を示す。

これを受けて岩男氏は、特にIT人材が枯渇している現状において、顧客企業内部でもDX推進人材の育成が重要だと強調。その上で、「お客様にしっかり入り込みお客様の課題を顕在化させて、寄り添っていきたいと思っています。製造業を支えていくには、ITベンダー同士も手を組むことが求められる時代になったと言えるでしょう」と述べる。

一方で、「ベンダー丸投げ」の顧客自身が意識改革を行う必要性に言及し、ユーザー企業、SIer、パッケージベンダーいう「三位一体」での推進が不可欠だと主張する。

桐生氏は、DX推進には「日本の経営のやり方を変える」という根本的な変革が必要だと提言。具体例として生産・販売・在庫管理(PSI)を挙げ、グローバル企業が「One PSI」でサプライチェーンマネジメントを実施しているのに対し、日本企業では「営業が販売のPSIを作り、製造工場側が工場側のPSIを作り、それを人間が擦り合わせている」という非効率な状況を指摘した。このような状況では、DXを進めようとしても進まない。

「そこでITベンダーは積極的に改善案を提案する必要があるが、真の解決には『経営の業績評価の仕方』や『部門に対して何をKPIとして与えるか』といった、経営の根幹からの変革が不可欠です。ITベンダーや顧客企業のIT部門・現業部門の努力だけでは、乗り越えられない壁があります」(桐生氏)

長谷川氏はハノーバーメッセ(産業見本市)で得た知見として、「水平と垂直のデータ統合」の重要性を紹介した。「水平統合」とは、部門内データ活用から部門間、全社、企業間、業種間へと水平にデータ活用が拡大していくことを指す。

「全社のデータドリブンを推進するには、組織政治が絡むこともあり、『強いリーダーシップ』が必要です。加えてデータを活用する人だけを褒めるのではなく、データ提供側へのインセンティブも設計することがポイントだと思います」(長谷川氏)

「垂直統合」とは、製造業のバリューチェーンにおけるエンドツーエンドでのデータ統合を意味する。現在、業界トレンドとなっており、シーメンスやSAPなどの大手ベンダーもこの方向性を示して統合を目指している。

しかし、このような「Oneプラットフォーム」アプローチはグリーンフィールドには適しているものの、既存システムを抱える日本の伝統的製造業にはハードルが高い。長谷川氏は代替案として、「バリューチェーン間をデータでつなぐハブとなるデータ基盤」の構築と、ITとOT(Operational Technology)を含めたデータ連携を提案。BOM(部品表)からセンサーの時系列データまで含めた「デジタルスレッド」(データの糸)というコンセプトで、地道に作り込んでいくアプローチが重要だと説明する。

講演の最後に佐藤は、ここまでのディスカッションで用いられたキーワードに触れながら、「何がDXなのかという定義から議論が始まることでしょうが、ユーザー企業、SIer、パッケージベンダーの『三位一体』『ワンチーム』での取り組みが、これからの時代には不可欠だと思います。日本企業のDXにはまだ『伸びしろ』があります。DXの進展によって世界で戦う企業を、いろいろな立場から支援することを願っています」という前向きな展望で締めくくった。

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