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コラム | SAP S/4HANAへの移行~システムコンバージョン詳細解説~ | {{ site_settings.logo_alt }}

作成者: 小林 雄介|Oct 31, 2025 6:28:30 AM


長らく企業の基幹システムとして利用されてきたSAP ECC 6.0ですが、2027年末に標準サポートが終了する予定です。延長保守オプションも存在しますが、オプション費用の発生や、セキュリティパッチ・法改正への対応・新機能の提供停止などの課題が存在するため、長期的な視点ではSAP S/4HANAへの移行が推奨されます。

移行方法は、大幅な業務プロセスの刷新を伴うか否かによって大きく分かれます。本稿では、主にブラウンフィールド(以下、Brown Field)と呼ばれる移行方法であるシステムコンバージョンについて説明します。

 

SAP S/4HANAへの移行の必要性とメリットを再考~CMにみる、DX~

標準サポート終了が2年後に迫っており、いよいよ本格的に移行に取り組まなければならないが「そもそも移行のメリットが見いだせない」もしくは「上申の理由付けが難しい」、と悩まれているIT部門の方も多いことでしょう。

SAP S/4HANA(以下、S/4HANAと略)は、単なる現行システムのアップデートではなく、導入企業様に多くのメリットをもたらします。

思い起こせばS/4HANAが登場した当時、最初に謳われていたのは、HANA DBの優れた性能でした。柔軟かつスピーディーな集計・分析が可能になることから、日々の経営判断の迅速さが強く求められる業種から移行が順々に進められていきました。

現在では、なんといっても「DX推進のため」という理由が一番多く見受けられます。さらに生成AIの登場と普及でこの理由はますます主流になってくるでしょう。業務変革のために多彩なUIを持つ端末や最新化していく接続先システムを利用しようと思った時、基幹システムが足を引っ張るようになってはいけないと考えます。

この考え方は、読者の皆さんも一度はご覧になられたことのあるCM~カードや携帯アプリでの支払いが主流になって現金だけしか取り扱いできないお店が困っている~を思い浮かべていただければ、状況はご理解いただけるのではないかと思います。

ビジネス環境が変わる中、自社だけが旧態依然として取り残される状況は避けたいものです。

 

S/4 HANA移行の方法は3種類、目的や制約条件で選定しよう

移行方法を記載します。

システムコンバージョン(Brown Field)

既存のSAP ECCシステムからS/4HANAへ、データを引き継ぎながら技術的に移行する方式です。これまでの資産を活かせるため、比較的短期間かつ低コストで移行できます。一般的に、この手法では業務プロセスの大幅な変更は実施しません。

新規導入(Green Field)

既存のシステムは引き継がず、SAP S/4HANAをゼロから再構築する方式です。業務プロセスそのものを見直し、最新の機能を最大限に活用できますが、期間とコストは大きくなります。
この手法をとる場合、アドオンやユーザー拡張を抑えて、クリーンコア(※)を志向することを推奨します。

※S/4HANAにおける「クリーンコア」とは、SAPの標準機能を最大限に活用し、カスタマイズ(アドオン開発)を最小限に抑えるという思想や戦略のことです。ERPシステムのコア部分をシンプルでクリーンな状態に保つことで、システムの柔軟性と保守性を高めることを目指します。

選択データ移行

上記2手法の中間に位置する手法です。既存システムを維持しつつ、重要なデータのみをS/4HANAに移行するなど、柔軟な対応が可能です。この手法は、SAP社または3rdパーティー※)による有償サービスにより提供されます。
想定される使用ケースは下記です。
・SAPインスタンス・クライアントや会社組織の統廃合がある
・システムコンバージョン時のダウンタイムを極小にしたい
・お客様固有の大規模な機能アドオンが存在し、その部分のみ継続して使用したい

※選択データ移行については、2025年10月現在、サービスを提供している3rdパーティーは世界でも一握りの企業のみであり、日本国内での提供は2社にとどまっています。B-EN-GはそのうちSNP社と情報交換を行っています。

 

3種類の移行方法の方法や適用イメージ、目的/特徴をまとめました。

 

増えるシステムコンバージョン(Brown Field) その概要

全体の傾向として、2027年のサポート期限切れも迫っていることもあり、2025年現在、S/4HANAへの移行ではシステムコンバージョンを選ぶケースが増えてきています。ニーズに対応するためSAP社では手順とツールの整備が進んでいます。

  • 前提条件
    ・SAP ECC6.0以上、EHPは不問
    ・Unicode環境であること。Non-Unicodeの場合は事前にUnicode化対応が必要
  • コンバージョンシナリオ
    ・現行のECC6.0をテクニカルにSAP S/4HANAに変換
    ・データベース、SAP NetWeaverおよびアプリケーションをワンステップで変換
    ・コンバージョンはインスタンス単位で実施。クライアントや会社コード単位では不可

 

システムコンバージョンの手順と注意ポイント

前述のようにS/4HANAへの移行ではシステムコンバージョン(Brown Field)が予算・期間的にメリットがあります。

とはいえ、予定通りの予算と期間でプロジェクトを完遂するためには、対象スコープやアプリケーションの対応方針を含めた十分な計画が必要です。
準備・計画の重要性をご理解いただくため、ソフトウエアとしてのSAP ERPシステムのS/4HANA化の流れを下記に示します。

 

実際のソフトウエア更新は、上図の黄色の部分が該当しますが、正常に実施が可能かを事前のチェックにより判断します。

【ここに注意!】

一般的に作業負荷が大きいタスクは、顧客固有の開発オブジェクト(いわゆるアドオン)部分の修正です。ECC6.0とS/4HANAでは、使用しているテーブルやBAPIが異なるケースがあり、その場合、修正が必要です。また、トランザクション画面が変更になるものが多いため、バッチインプットプログラムは多くの場合、修正が必要です。

チェック内容によっては、1段階ではコンバージョンできないケースや一部機能の削除または大幅修正が発生することがあります。

  • 多段階コンバージョンが必要な例
    ・現行機がERP6.0より前のもの
    ・現行機がUnicode化されていないもの
     -Unicode化+S/4HANAコンバージョンを1度で実施するとダウンタイムが長くなり、業務上許容できる日数の範囲を超えてしまう可能性が高く、2回に分けるケースが多い
  • 一部機能の削除例
    ・S/4HANAでサポートされない、サードパーティのAdd-on
  • 機能の大幅修正の例
    ・得意先/仕入先マスタをBP(ビジネスパートナ)マスタとして統合
    ・与信管理機能は、FSCM(財務サプライチェーン管理)によって置き換えられる

 

システムコンバージョンの準備として修正ポイントを洗い出す

コンバージョン実施に先立ち、新環境のために必要な修正ポイントを洗い出すためのタスクを下図に示します。
それぞれのタスクに有用なツールがSAP標準として提供されています。

 

システムコンバージョンプロジェクト全体像

準備も含め、移行後のS/4HANA本番稼働までを示します。図の下に解説も加えました。併せてご覧ください。

  • アセスメント/予算化段階で、Readiness Checkを実施し、コンバージョンの可否や機能レベルでの大きな改廃が発生するか確認します。
    ※前項で述べた「コンバージョン準備タスク」のうち、Readiness Checkがこの部分に該当します。
  • プロジェクト準備において、SI-CHECKおよびCustom Code Checkを含む移行アセスメントを実施し、結果に基づいて詳細の見積りとプロジェクト計画を策定します。
    ※アセスメント結果を重要度や使用度と突合し、効率よく評価するために、アセスメントツールとして「Panaya」の使用が有効と考えます。
  • 推奨手順として、本番機をコピーしたサンドボックス機を作成し、アセスメントおよび実際のコンバージョンを実施します。その中で発生した課題をFit&Gap分析にて解決します。
  • ランドスケープに従って開発環境から順次システムコンバージョンを実施します。サンドボックス機での検証内容を開発機に反映し、新環境での移送ルートを使用して検証機に反映・テストを実行します。
    ※改修したオブジェクトに関連するテストの計画・管理および、テストのスクリプト化により作業効率向上のため、Panayaのテスト機能使用を推奨します。
  • 移行期間は原則として現行環境の改修は凍結します。法対応や不具合など、修正が不可避の場合は、現行環境と移行環境を二重メンテナンスします。
  • コンバージョン時の作業手順の確認やダウンタイムの計測・改善のため、移行リハーサルを数回実施します。
  • 移行リハーサルの結果を考慮して手順を最終化し、本番機のシステムコンバージョンを実施します。

 

まずは移行、徐々にクリーンコアを目指す

いかがでしたか?S/4HANA化にあたっては、ライセンサーであるSAP社もツールと手法を提供し、また、さらにスムーズに移行するためのPanayaはじめ様々な製品もあります。B-EN-Gはそれらを組み合わせ、Brown Fieldでの移行後、クリーンなコアを徐々に実現していくことも念頭に置きながら移行プロジェクトを遂行いたします。ぜひ、ご相談ください。

 

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