長らく企業の基幹システムとして利用されてきたSAP ECC 6.0ですが、2027年末に標準サポートが終了する予定です。延長保守オプションも存在しますが、オプション費用の発生や、セキュリティパッチ・法改正への対応・新機能の提供停止などの課題が存在するため、長期的な視点ではSAP S/4HANAへの移行が推奨されます。
移行方法は、大幅な業務プロセスの刷新を伴うか否かによって大きく分かれます。本稿では、主にブラウンフィールド(以下、Brown Field)と呼ばれる移行方法であるシステムコンバージョンについて説明します。
標準サポート終了が2年後に迫っており、いよいよ本格的に移行に取り組まなければならないが「そもそも移行のメリットが見いだせない」もしくは「上申の理由付けが難しい」、と悩まれているIT部門の方も多いことでしょう。
SAP S/4HANA(以下、S/4HANAと略)は、単なる現行システムのアップデートではなく、導入企業様に多くのメリットをもたらします。
思い起こせばS/4HANAが登場した当時、最初に謳われていたのは、HANA DBの優れた性能でした。柔軟かつスピーディーな集計・分析が可能になることから、日々の経営判断の迅速さが強く求められる業種から移行が順々に進められていきました。
現在では、なんといっても「DX推進のため」という理由が一番多く見受けられます。さらに生成AIの登場と普及でこの理由はますます主流になってくるでしょう。業務変革のために多彩なUIを持つ端末や最新化していく接続先システムを利用しようと思った時、基幹システムが足を引っ張るようになってはいけないと考えます。
この考え方は、読者の皆さんも一度はご覧になられたことのあるCM~カードや携帯アプリでの支払いが主流になって現金だけしか取り扱いできないお店が困っている~を思い浮かべていただければ、状況はご理解いただけるのではないかと思います。
ビジネス環境が変わる中、自社だけが旧態依然として取り残される状況は避けたいものです。
移行方法を記載します。
既存のSAP ECCシステムからS/4HANAへ、データを引き継ぎながら技術的に移行する方式です。これまでの資産を活かせるため、比較的短期間かつ低コストで移行できます。一般的に、この手法では業務プロセスの大幅な変更は実施しません。
既存のシステムは引き継がず、SAP S/4HANAをゼロから再構築する方式です。業務プロセスそのものを見直し、最新の機能を最大限に活用できますが、期間とコストは大きくなります。
この手法をとる場合、アドオンやユーザー拡張を抑えて、クリーンコア(※)を志向することを推奨します。
※S/4HANAにおける「クリーンコア」とは、SAPの標準機能を最大限に活用し、カスタマイズ(アドオン開発)を最小限に抑えるという思想や戦略のことです。ERPシステムのコア部分をシンプルでクリーンな状態に保つことで、システムの柔軟性と保守性を高めることを目指します。
上記2手法の中間に位置する手法です。既存システムを維持しつつ、重要なデータのみをS/4HANAに移行するなど、柔軟な対応が可能です。この手法は、SAP社または3rdパーティー(※)による有償サービスにより提供されます。
想定される使用ケースは下記です。
・SAPインスタンス・クライアントや会社組織の統廃合がある
・システムコンバージョン時のダウンタイムを極小にしたい
・お客様固有の大規模な機能アドオンが存在し、その部分のみ継続して使用したい
※選択データ移行については、2025年10月現在、サービスを提供している3rdパーティーは世界でも一握りの企業のみであり、日本国内での提供は2社にとどまっています。B-EN-GはそのうちSNP社と情報交換を行っています。
3種類の移行方法の方法や適用イメージ、目的/特徴をまとめました。
全体の傾向として、2027年のサポート期限切れも迫っていることもあり、2025年現在、S/4HANAへの移行ではシステムコンバージョンを選ぶケースが増えてきています。ニーズに対応するためSAP社では手順とツールの整備が進んでいます。
前述のようにS/4HANAへの移行ではシステムコンバージョン(Brown Field)が予算・期間的にメリットがあります。
とはいえ、予定通りの予算と期間でプロジェクトを完遂するためには、対象スコープやアプリケーションの対応方針を含めた十分な計画が必要です。
準備・計画の重要性をご理解いただくため、ソフトウエアとしてのSAP ERPシステムのS/4HANA化の流れを下記に示します。
実際のソフトウエア更新は、上図の黄色の部分が該当しますが、正常に実施が可能かを事前のチェックにより判断します。
【ここに注意!】
一般的に作業負荷が大きいタスクは、顧客固有の開発オブジェクト(いわゆるアドオン)部分の修正です。ECC6.0とS/4HANAでは、使用しているテーブルやBAPIが異なるケースがあり、その場合、修正が必要です。また、トランザクション画面が変更になるものが多いため、バッチインプットプログラムは多くの場合、修正が必要です。
チェック内容によっては、1段階ではコンバージョンできないケースや一部機能の削除または大幅修正が発生することがあります。
コンバージョン実施に先立ち、新環境のために必要な修正ポイントを洗い出すためのタスクを下図に示します。
それぞれのタスクに有用なツールがSAP標準として提供されています。
準備も含め、移行後のS/4HANA本番稼働までを示します。図の下に解説も加えました。併せてご覧ください。
いかがでしたか?S/4HANA化にあたっては、ライセンサーであるSAP社もツールと手法を提供し、また、さらにスムーズに移行するためのPanayaはじめ様々な製品もあります。B-EN-Gはそれらを組み合わせ、Brown Fieldでの移行後、クリーンなコアを徐々に実現していくことも念頭に置きながら移行プロジェクトを遂行いたします。ぜひ、ご相談ください。
コラムシリーズ「クリーンコアを維持するための拡張開発」
クリーンコアとは、SAPが近年提唱している戦略で、ERPシステムの標準機能を最大限に活用するために、Fit to Standardを徹底し、カスタマイズを最小限に抑えることを目指す戦略です。 これにより、ビジネスの変化に柔軟かつ迅速に対応可能となります。
コラムではクリーンコアを維持するための拡張開発(アドオン)手法について紹介します。