クラウドERP導入推進者に求められるマインドセットは何か? ~Fit to Standardの実践と価値
DXという観点からビジネス環境の変化に追随できるシステムを目指し、パッケージ標準に業務を合わせる「Fit to Standard」を掲げて基幹システムの導入を進めるケースが増えてきました。
筆者は長らくSAP ERPの導入に携わった後、マルチテナント型のSAP S/4HANA Cloudの導入支援をしている経験も踏まえ、特に「Fit to Standard」が求められるクラウドERP導入推進者に求められるマインドセットについて考察していきたいと思います。
導入の流れは変わらない。ただし、クラウド特有のプロセスはある
クラウドERP導入時の導入方法論を見てみましょう。下図はPublic版SAP S/4HANA Cloudの導入方法論※です。要件定義があり、実現化、テスト、教育、移行という流れには、従来のERP導入と大きな差はないです。
※2023年夏現在もちろん、クラウド導入の特徴的なプロセスも幾つかあります。
例えば、製品ベンダーのかかわりが深くなるため、ベンダーとの定期ミーティングやレビューの機会が増えます。
また、自動アップグレードのスケジュールをあらかじめ導入プロジェクトに織り込む必要があります。自動アップグレードは、まさにこれがクラウドERPを導入するメリットそのものになりますが、導入方法論自体も更新され新しいタスクが発生するケースや、テストフェーズが自動アップグレード期間にあたる場合はパラメーターが触れないなどスケジュールに影響が出ます。最初の段階でどのタイミングでアップグレードが発生するのかというのを認識した上で、スケジューリングをすることが必要になります。
変わらない「グローバル標準化」
次に業務プロセス、レポート、KPI、マスターデータなどのグローバル標準化の観点で考えてみます。この点でも今までと基本的な考え方には差異はありません。カスタマイズやプログラム開発については、パラメーターの制限が当然あります。ネガティブにとらえがちですが、基本的にはベストプラクティスを採用しなければいけないので、論点が限られているという意味で逆に標準化に寄与するところもあると思っています。
Fit to Standardは可能か、不可能か?将来そのギャップが埋まるかも。
Fit to Standardはクラウド型パッケージ導入のまさに肝になる部分です。言葉からすると、パッケージ標準のプロセスに合わせることになりますが、「合わせられない」と懸念される方も多いと思います。
結論から申し上げると、今ある機能だけではなく、将来性に着目することが重要です。
実際、筆者の経験したプロジェクトでは、Fit to Standardを実施した時点では存在していなかった受注の承認ワークフロー機能が数カ月後にパッケージに採用され、当初の導入計画外の機能ではありましたが検証後適用することにしました。結果的にユーザー様にとってのメリットは非常に大きいものでした。
SAP S/4HANA Cloudの場合、パッケージベンダーであるSAP社からのアップグレードに関するセッションはもちろんのこと、ユーザー会でも説明会は実施しています。これらの情報を集めることによって、自らの会社のプロセスに対してどんな影響があるのかを事前に評価し適用検討を行ったり、あるいはSAP社に対して新機能を提案することができるようになります。一方で、クラウドERPの安定運用と新機能メリットのためには、お客様と私共のようなパートナーでアップグレードに備えた体制を作っておくことが大切です。
導入推進者に求められるマインドセット 3点
最後に私から、クラウドERP導入を検討している方々にお伝えしたいマインドセットを3つ挙げます。
1)徹底した目的志向
プロジェクトを遂行する上では、プロジェクトの背景を理解し目的達成のために遂行するの重要性は、今も昔も変わらないです。何か課題が発生した時に、解決する際の拠り所、羅針盤になります。
筆者が経験したプロジェクトでは、お客様において「クラウドのスピード感、成長性拡張性がビジネス成長に価値をもたらす」と定義をし、それがクラウドを選択した理由であるとプロジェクトの関係者全員に共有されていること、それがあるが故に、迷わず決断ができたと思っています。
2)継続的価値を得るための標準化
アップグレードのメリット=継続的機能向上を得るのがクラウドを採用する一番の理由です。そのメリットを得るためにはやはりFit to Standard、パッケージの標準プロセスをできる限り採用し、適用しやすくすることが重要です。単純に現在の自社像にはとらわれないで、いかに標準プロセスに合わすことができるのか、合わすことがメリットであると考えながら進めることが重要です。
3)クラウドの革新を楽しむ力
コミュニティに参加し、自ら情報を得ていく行動も大事です。アップグレードに際し改善要望を上げることができます。ユーザー会を通して要望を上げることで、システムとともに会社も個人も成長していく。そういったマインドセットを持つことが、クラウドERPの導入を成功に導くポイントです。
最後に
クラウドマインドに切り替え、共に楽しんでDXへの歩みを進めていきましょう。
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ビジネスの海外展開に合わせ、グループ共通の基幹システムをSAP S/4HANA Cloudで提供、各海外拠点の経営情報をリアルタイムで可視化。同製品の最新機能を活用しつつ、計画通りの進捗で中国現法がサービスインできた点が高く評価されました。B-EN-G側のプロジェクトマネージャーは筆者が務めました。