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コラム | S/4HANAコンバージョンにおける高品質なデータ移行の極意~標準原価/MRP実行結果の比較検証~{{ site_settings.logo_alt }}

作成者: 荒木 優佑|Jul 3, 2026 2:26:35 AM

 

SAP S/4HANA(以下S/4HANA)コンバージョンのプロジェクトにおいて、最も難易度が高く、かつプロジェクトの成否を分ける重要なフェーズが「データ移行」です。 システムの基盤が新しくなっても、そこに流れる血液であるデータの精度が低ければ、業務運用は立ち行かなくなります。

今回は、数多くのS/4HANAコンバージョンを成功に導いてきた私たちの経験から、稼働後に「絶対に業務を止めない」ための高品質なデータ移行の極意をお伝えします。

 

高品質なデータ移行の定義

私たちが考える「高品質なデータ移行」とは、単に新システムにデータを入れ終わった状態を指すのではありません。新システムが稼働し、現場で新たな業務運用が始まり軌道に乗るまでの「過渡期の期間」はもちろん、その先の「安定稼働」に至るまで、一貫してトラブルなく実業務を回し続けられるデータであること。それこそが、私たちの「高品質なデータ移行」の定義です。

エラーなくデータを流し込むことは、いわばスタートラインに立つための準備作業です。私たちが本当に見据えているのは、その先にある「お客様の普段の業務」です。

「システムが新しくなることで、業務が止まってしまうのではないか」という現場の皆様の不安を払拭し、稼働初日から滞りなく本来の業務に集中できる環境を作ること。この「業務品質」を担保することこそが、私たちが定義する「高品質なデータ移行」なのです。

 

データ移行の罠

一般的なデータ移行では、各オブジェクト(品目マスタ、BOMマスタ、製造指図など)単位で、データの投入が正常終了したかどうかの確認が中心になりがちです。少し踏み込んだとしても、抽出したデータと投入したデータを目視で突き合わせるサンプリングチェックに留まるケースが多く見受けられます。ここに大きな「データ移行の罠」が潜んでいます。

SAPのデータ構造は非常に複雑で、テーブルや項目の数は膨大です。詳細な項目の個別確認には多くの時間が必要となるため、限られた移行期間内にすべてを網羅して確認することは物理的に不可能です。 その結果、移行データの投入時点ではエラーとして顕在化せずにすり抜けてしまうことがあります。

これらは、移行フェーズでは静かに潜伏し、本番稼働後に致命的なトラブルとして牙を剥く可能性があります。稼働後のクリティカルな業務停止を引き起こす問題は、単純なデータ投入ログの確認だけでは決して検知できないのです。

こうした罠を回避し、本番稼働初日からスムーズに実業務を動かすためにB-EN-Gでは「標準原価」と「MRP実行結果」というSAPのシステムの根幹的な業務処理にて作成されたデータを新旧システムで比較検証するアプローチをとっています。以下に、その2つの極意について詳しく解説します。

 

極意1 マスタデータの品質証明「標準原価積上結果の比較」

網羅的な個別確認が不可能であるならば、どのようにしてマスタデータの品質を100%に近い精度で証明すればよいのでしょうか。

その極意の1つ目が、「標準原価積上結果の比較」というアプローチです。 標準原価積上とは、製品を製造するために必要なコストを計算するSAPのシステムの根幹的な処理です。私たちは、データ移行後にこの標準原価積上処理を実施し、旧システム(ECC)とS/4HANAの標準原価を比較検証します。

図:標準原価積上の仕組み

なぜこの処理を選ぶのか。それは、標準原価積上が「マスタデータの総合テスト」として最も優れているからです。 原価を正しく計算するためには、様々な種類のマスタが正しく設定されている必要があります。

もし、これらのマスタのどれか一つでも移行プロセスで不整合を起こしていたらどうなるでしょうか。 例えば、作業手順に紐づく作業区に対して最新の賃率の設定が漏れていた場合、作業時間自体は正しくても、算出される加工費は実態と全く異なる金額になってしまいます。 こうした複雑なマスタ間の紐付きの不備は、最終的な製品原価の「算出結果の差異」として如実に表れるのです。

図:マスタ移行不備にて発生する標準原価の差異の具体例

つまり、新旧システムで数万、数十万品目の標準原価積上を実行し、計算された原価や構成内容が「ピタリと一致」すれば、それは個別項目チェックを何万回繰り返すよりも確実な証拠となります。BOM、作業手順、購買情報といった「製造業における最重要マスタ群が、完璧な整合性を持って移行されている」という、極めて強力な品質証明となるのです。

 

極意2 トランザクションデータの品質証明「MRP実行結果の比較」

マスタデータが正しくても、日々変動するトランザクションデータ(在庫や各種伝票)が正しく移行されていなければ、やはり業務は回りません。トランザクションデータの品質を証明するための2つ目の極意が「MRP(資材所要量計画)実行結果の比較」です。

MRPは、「何を、いつまでに、どれだけ作るべきか(買うべきか)」という手配計画を自動生成する、生産管理における心臓部とも言える処理です。
私たちはこのMRP処理を実行し、生成された手配データについて旧システム(ECC)とS/4HANAにて突合して比較検証します。

図:MRP(資材所要量計画)の仕組み

私たちがMRPを比較検証の軸に据える理由は、これが「トランザクションデータとカスタマイズ設定を掛け合わせた、最も確実な業務シミュレーション」になるからです。

正しい手配数量と手配日を導き出すためには、トランザクションデータが1件の漏れもなく移行されている必要があります。さらに、様々な種類のマスタの各パラメータに加え、複雑なカスタマイズがすべて連動して初めて、正しい計算が成立します。

では、この「トランザクションデータ及びカスタマイズ設定」のどこか一箇所でも移行ミスが潜んでいた場合、稼働後の現場にはどのような影響が及ぶでしょうか。例えば、旧システムに存在した「購買発注残」のデータが、移行時に一部欠落していたとします。するとMRPは「資材が足りない」と誤認し、不要な計画手配や購買依頼を自動生成してしまいます。これは稼働直後の「二重発注」や「過剰在庫」という実害に直結します。

このようなトランザクションデータの欠落をはじめ、カスタマイズの設定不備といった問題も、最終的な計画手配の「数量や日付の差異」として確実にあぶり出されます。

図:トランザクションデータ/カスタマイズ移行不備にて発生するMRP実行結果の差異の具体例

だからこそ、新旧システム間で全件のMRP実行結果が一致したという事実は、移行品質の担保となります。膨大なトランザクションデータが1件の漏れもなく移行され、かつS/4HANA上の複雑なカスタマイズ設定が旧システムと遜色なく機能し、「明日からでも滞りなく実業務を回せる状態にある」という、揺るぎない品質証明となるのです。

 

業務を止めないコンバージョンを実現するための心得

ここまで、マスタデータとトランザクションデータの品質を証明するための2つの極意(標準原価積上とMRPの比較検証)をご紹介しました。

言葉で書くのは簡単ですが、これらの検証を実プロジェクトで完遂するのは容易ではありません。ECCとS/4HANAの仕様差異を吸収し、数万件に及ぶ実行結果を出力してツールを駆使して突合し、わずかな差異の原因(データの不備なのか、S/4HANAの仕様変更による正しい差異なのか)を一つ一つ追究していく作業は、極めて泥臭く、高度なSAPシステムの知見と膨大な時間、そして根気を要する大変な作業です。

しかし、私たちはプロジェクトの特性やデータの複雑度、 そしてお客様のご要望に合わせ、こうした泥臭い作業を移行プロセスの作業として組み込み、実プロジェクトの現場に適用しています。なぜなら、コンバージョンにおいて「顧客に寄り添い、稼働後の業務を絶対に止めないこと」が、私たちの使命だからです。

効率だけを優先し、表面的なシステムエラーの解消だけで「移行完了」としてしまえば、そのツケを払うのは稼働後に混乱する現場のユーザー様です。私たちは顧客第一の精神のもと、システムの裏側にある「お客様の日常業務」を守るため、見えない部分の品質担保に徹底的にこだわっています。

S/4HANAへのコンバージョンは、単なるシステムのバージョンアップではありません。 ビジネス基盤の刷新です。だからこそ、業務を止めない高品質なデータ移行を実現できる、真の意味で頼れるパートナー選びが重要になります。私たちは顧客満足を第一とする企業理念に沿った業務を遂行することでお客様に確かな安心感を提供し続けます。

 

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