FTA(自由貿易協定)により、関税をなくして、モノやサービスの自由な貿易を一層進めることが期待されています。益々重要な役割を担う国際貿易担当者の皆さんに、FTA概要と期待効果、利用の秘訣をご紹介します。
2013年6月に発表された「日本再興戦略」では、2018年(平成30年)までに、我が国貿易のFTA比率70%を目指すとされ、「TPP、RCEP、日中韓 FTA、日 EU・EPA 等の連携交渉を推進し、世界の主要な国々との経済連携を深める…」とされています。貿易のFTA比率とは、日本の貿易額に占めるFTA締結国との貿易額の割合を意味しますが、2013年時点での日本のFTA比率は19%ですので、日本政府が野心的な成長戦略目標を掲げていることがわかります。
しかしながら、実体的にはFTAとEPAに違いは無く、要すれば、どちらも国・地域間の物品やサービス貿易に係る規制をなくし、自由な環境のルールの下で貿易・投資を促進しようとする国際的な協定です(以下、本稿ではFTAとEPAを区別せずFTAと記述する)。
世界の貿易ルールはWTO(世界貿易機関)を中心に議論されてきました。しかし160を超える国と地域が参加する多国間協議は合意形成が難しく交渉が停滞してしまっています。こうした状況を背景に、2国間での自由貿易協定を締結することが、特に冷戦終了後の90年代後半から盛んになって来ました。現在、世界では270件を超えるFTAが締結されていると報告されています。
日本は、2002年にシンガポールとFTAを締結して以来、これまで15の国・地域とFTAを発効させており、また9の国・地域と交渉を行っています。
現在の日本のFTA交渉で注目すべきは、以下のように多数の国が参加する広域FTA(いわゆるメガFTA)の交渉に取り組んでいることです。
アジア及び太平洋圏の21か国・地域による経済協力の枠組みであるAPECでは、2006年の首脳会合で「アジア太平洋自由貿易圏FTAAP(Free Trade Area of the Asia Pacific)」が提案されました。まだ具体的な交渉に入っていませんが、仮に実現すればTPPとRCEPを包括した、世界GDPの58%に相当する巨大な自由貿易圏が誕生することになります(米国も中国も含まれる)。
東アジア、東南アジアの各国も日本以上に多数の貿易相手国とFTAを締結しています。
こうした各国のFTAの状況をアジアについて俯瞰すると、今や日本からインドに至るまで様々なFTAでカバーされるFTAネットワークが形成されています。 日本がFTAを締結している相手国が他の第3国と締結しているFTAを組み合わせ利用すれば、日本がFTAを締結していない第3国も含め、部品・原材料取引から最終製品の取引までサプライチェーン全体に亘ってFTAの恩恵を享受することも不可能ではない状況が既に実現しています。
次に、FTAによる関税の減免のメリットと複数国間でのFTAネットワーク利用のメリットについて単純化した例でご説明いたします。
日本からFTAを締結したA国へ、FTA対象となっている「製品X」を年間1億円輸出している場合で、当該製品に対してA国で一般に適用される関税率(MFN税率)が25%、他方、日本とのFTA協定による関税率がゼロとされたならば、日本とA国との間でFTAがなければ関税納付額は2500万円になりますが、FTAのおかげで関税負担はゼロになります。すなわちFTAによって2500万円の関税負担が消滅することになります。
次にA国に組立工場を建設し、日本とB国から輸入された部品によって「製品X」をA国で組み立て、C国とD国へ輸出するケースを想定します。
日本とB国がそれぞれA国とFTAを締結し、それぞれの部品がFTAの対象品目になっていればA国は無税で部品を輸入し「製品X」を組み立てられます。次にA国とC国、D国がそれぞれFTAを締結しており且つ「製品X」がそれぞれFTAの対象品目となっていれば、C国、D国も「製品X」を無税で輸入できることになります。
すなわち、日本とC国、D国との間でFTAが締結されていなくとも、部品調達から組立、最終市場への輸出に至るサプライチェーン全体に亘ってFTAの効果を享受できることになります。
概念的には、FTAをうまく利用できれば企業にとって競争上有利なグローバル戦略を構築できるということになりますが、協定内容の複雑さと270を超えるFTAが乱立している状況から、これは容易なことではありません。日本は現在、15の国・地域とFTAを締結・発効させていると前述しましたが、言い換えれば15通りの貿易ルールがあることを意味し、世界では270を超えるルールが乱立していることを意味します。
FTAを利用するには、扱っている製品がFTA協定の対象としてどのように分類されているか、どのような関税率が(関税率ゼロに至るまで)どのようなスケジュールで適用されるか、またどのような原産地規則が適用されるかを調査しなければなりません。
さらに、複数のFTAを利用しようとする場合には、それらFTAのそれぞれについて関税率、原産地規則等について調べなければなりません。2国間FTAから広域FTAが模索されてきている背景にはこうした要因もあります。
企業においてFTA協定内容を調査して比較分析できるマンパワーに限りがあることを考えると、利用できるFTAも相当に制約されざるを得ないと考えられます。
そこで、FTAを利用するためのチェックリスト「FTA利用のための基本要件項目」を紹介します。
このチェックリストに従って、FTAのメリットを享受し、グローバル市場での成長のためのヒントとしてお役立てください。
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