輸出者が、世界税関機構(WCO)が推し進めるトレードセキュリティ(船積24時間前の電子的事前報告と(10+2)ルール)に対応するための3つの注意するべき対策を解説します。トレードセキュリティ導入の背景から、わかりやすく紹介します。
2001年9月11日に起こった全米同時多発テロ事件(9.11)により、人々は船や飛行機のような輸送手段がテロの脅威となりうることを知るところとなりました。従来からヒトや貨物の入国は税関等の水際管理当局等が入国直前でコントロールしてきましたが、この事件を契機に、WCO(世界税関機構:World Customs Organization)は日本、米国を含む12か国で、輸出入貨物のセキュリティ対策についての検討を始めました。
特に外見からは内容物が判別できないコンテナ貨物は、爆発物の差込みによるテロ事件が引き起こされると、甚大な被害につながることから、輸出地で船や飛行機に積み込む前でのIT、ハイテク技術を活用したリスクベースでの対応方法等について検討が積み重ねられ、最終的にその検討成果はWCO「基準の枠組み」※ と呼ばれるガイドラインとしてまとめられ2005年にWCO総会で採択されました。
※ 英語ではSAFE(Security and Facilitation in a Global Environment)Frameworkと呼ばれています。
WCO 「基準の枠組み」は世界レベルでのサプライチェーン全体のトレードセキュリティ確保と貿易円滑化を両立させるための方策をまとめたガイドラインであり、税関当局どうしの協力関係、税関・民間企業のパートナーシップのもとで、積荷情報の電子的事前報告制度や、一定の基準を満たす民間企業に対する優遇措置の明確化(AEO:Authorized Economic Operator 制度)等を加盟国で実施していくとしています。各国の税関当局はこのガイドラインに沿って、自国の法的枠組みや税関の処理能力に応じたトレードセキュリティ施策を段階的に導入していくこととしており、現在は日欧米等先進国を中心に導入が進んでいます。
多くのトレードセキュリティ施策のうち、ここでは日本の輸出入者の関心が特に高い税関当局主導の2つの施策を見ていきたいと思います。
(1)積荷情報の電子的事前報告制度
代表的な施策としては米国が2002年に導入した船積24時間前ルールが上げられます。船会社は輸出者等から集めた貨物情報を船積24時間前までに米国税関に報告しなければ、船積みができないとするルールで、結果としてコンテナヤードのカットオフタイムは本船入港の3営業日前と、従来と比べ2日間前倒しとなり、荷主企業の輸送リードタイムに大きな影響が出ました。船積24時間前ルールはその後、EU、中国、日本等にも導入が広がっているため、導入国への輸出にあたっては、コンテナヤードへの搬入カットオフタイムに注意が必要です。
また、米国は貨物リスク判定の精度を高めるため、船積24時間前ルールに続き、2009年には10+2ルールと呼ばれる新たな積荷情報の電子的事前報告制度を導入しました。10+2ルールとは、米国の輸入者に10項目、船会社に2項目の追加情報の提出を義務づける制度です。
本ルールは米国輸入者に報告義務が課せられていますが、米国の輸入者が報告しないと輸出港で船積み拒否の怖れがありますので、特に米国との新規取引では、輸入者とのしっかりしたコミュニケーションが必要です。
(2)AEO制度
AEO制度 (Authorized Economic Operator)は、貨物輸送に係るセキュリティ確保(貨物の盗難、差し替え、差し込みの防止等)及び関税法等貿易関係法令遵守に対する社内管理体制を整備し実施している輸出入者や物流会社、船会社等を税関当局が認定し、通関申告の審査、貨物検査率等の面で優遇する制度で、米国、EU、中国、韓国、日本等、多くの国が導入しています。
各国のAEO制度はWCO基準の枠組みに沿って制度建てが行われているため基本設計は同じですが、国によって名称が異なったり(米国はC-TPAT)、認定要件に違いがあったり、また米国では海外の取引先にも認定者と同レベルのセキュリティ要件を求める等、様々です。
AEO認定者の輸出入手続きは、一般と比べ審査で低い検査率が適用されますので、貨物引取の予見性が一層高まり、スピーディな貨物の引取りが期待できます。
AEO制度は強制ではなくAEOとして認定を受けるかどうかは個々の企業の判断に任される自発的参加制度です。しかし日本は米国、EU、マレーシア、韓国等とAEO相互承認を締結していますから、グループ企業を含め、当該国との間で取引が多い企業は積極的に本制度の活用を検討するとよいでしょう。なお、最近では航空貨物保安を始めとする新たなセキュリティ制度とAEO制度との調和に向けた動きや、企業間の取引においてもAEO認定企業を取引条件に上げる企業が日本企業でも増加傾向にある等、AEO制度への注目が高まっています。
トレードセキュリティに関して輸出管理担当者はどのような点に注意すればよいでしょうか。ここでは、大きく3つのポイントについて、お伝えしたいと思います。
(1)セキュリティ施策情報の定期的点検
世界中でテロが多発する今日、輸出ビジネスにおけるトレードセキュリティ施策は今後も強化されることはあっても緩和されることはないでしょう。新たなセキュリティ施策が導入されると、輸送のリードタイムや輸出者へのコスト転嫁等の影響が出かねませんので、輸出者も積極的にトレードセキュリティ施策の情報収集を図り、早めの対策を心がけることが大事です。
(2)社内管理体制のチェック
税関のみならず最近では、航空当局、海事当局が、飛行機や船の保安・安全の観点から策定した航空貨物保安制度や海上コンテナ重量報告制度には、輸出者は社内に作業手順書を準備しているか、異物が混入しないような運用体制を取っているか、法令に沿った文書保存を行っているか等、荷主の社内管理体制に目が向けられ始めており、AEO制度とも一部調和が進められています。
税関や国交省はチェックリストを公表していますから、これらを参考に社内の管理体制をチェックし整備しておく必要があります。
(3)サプライチェーン関係者との連携強化
現在のトレードセキュリティは、サプライチェーンの川上から川下までの間、複数の施策を重層的に適用することで高リスク貨物の絞込みを行います。輸出者はスピーディかつ安全確実に商品を輸入者に届けなければなりませんが、輸出者の倉庫会社、船会社、等、複数のプレーヤーが関わるサプライチェーン途上において、そのどこかでセキュリティ施策違反が起きると、貨物が留め置かれることになりかねません。こうした事態を避けるためにも、輸出者は、サプライチェーン・オペレーションに係る関係事業者と緊密に連携し、貨物の輸送を厳格に管理し、また税関に対する申告漏れ等がないように全体の工程管理を行うことが大切です。