前回は、顧客マスタにおける主要な論点についてご紹介しました。
今回は、前回挙げた論点の中でも代表的な論点の一つである「法人顧客と個人顧客」について、もう少し掘り下げたいと思います。
ビジネスにより取引相手が法人顧客中心、個人顧客中心といった傾向はあるにせよ、法人・個人どちらの取引もある企業も多いのではないでしょうか。
どちらが相手の場合も受注・出荷・請求・入金といった基本的な業務プロセスは変わりませんが、マスタデータという観点で両者を見ると、特徴が大きく異なることがわかります。
特にデータの取得元・発生状況やデータ品質の状況の相違により、法人顧客と個人顧客では、MDMアーキテクチャも異なる考え方をしなければならないことがあります。
法人顧客のデータは、基本的には公開されている部分が多く、それらを調査して入力するか、各種の法人データベース情報を取得して取り込むことでゴールデンレコードを作成・維持することも可能です。
対象企業の合併・分割等が行われた場合、外部の法人データベースではそれぞれ独自に資本や事業の継続性などの基準により法人コードの引継ぎや再発行が行われます。しかし、外部の法人データベースを利用していない場合や、自社の基準で過去実績データと変更後マスタとの紐付けを決定したい場合などは、合併・分割時のゴールデンレコードの更新ルールを決めておく必要があります。
一方、個人顧客のデータは「個人情報」であり、基本的には顧客自身の入力、もしくは申告内容による情報の登録・更新を行います。
特に従来は、事業ごとにシステムが構築されていて、顧客マスタもそれぞれの要件に合わせ個別のシステムで最適化されていることが多く、ゴールデンレコードを作成する場合はシステム毎に重複して登録されている顧客を名寄せする必要があります。
顧客が自身でデータを作成するため、それぞれの入力毎に表記揺れが発生している可能性も高く、名寄せの難易度も法人顧客より高くなります。
では、法人顧客のデータと個人顧客のデータのゴールデンレコードの形はどうなるでしょうか。
姓と名を分けて管理する必要がなければ、法人名と個人名は同列に扱ってもよいかもしれません。また住所や電話番号も、法人と個人で同列に扱うことも可能でしょう。
一方、法人と個人では異なる情報を管理する必要もあります。
■ 法人:事業開始年月日、資本金、代表者、取引担当者、等
■ 個人:生年月日、職業、勤務先、役職、等
法人顧客と個人顧客を全く別のマスタにできるのでれば、データモデルもシンプルです。
しかし、現実的にはこのように完全に分離して管理することは非常に珍しいでしょう。
先に申し上げた通り、法人・顧客どちらが相手でも、受注・出荷・請求・入金といった基本的な業務プロセスは変わらず、これらの業務システムでは両者まとめて「顧客」として扱う場面が多いからです。
パッケージの業務システムを使用する場合に顧客マスタが一つの形でしか存在せず、各項目の使用方法をある程度妥協しつつ同一の顧客マスタで両者を混在させることも多いと思われますが、MDMの中で、より理想的な形で保持をするのであれば、共通項目とそれぞれ独自の項目を整理した以下のようなデータモデルとします。
上記のデータモデルにおいて、「顧客」エンティティは「スーパータイプ」、「法人顧客」「個人顧客」各エンティティは「サブタイプ」という呼び方をします。顧客IDのレベルで見れば、サブタイプはそれぞれ、スーパータイプの部分集合となっています。
上記では法人顧客と個人顧客の違いとデータモデルの考え方について、ごく基本的な部分のみ取り上げました。 実際にはそれぞれで更に別の論点の検討も必要になります。例えば法人顧客では、前回コラムの中でも論点であげた、管理粒度や役割の管理があります。一方、個人顧客においても、紹介制度による顧客間の関係性やマーケティングのための家族情報の保持などが必要となる場合があります。
特に個人顧客のデータをどのような形で認識・保持するかはビジネスモデルに直結する部分であり各社各様の対応となりますので、将来も見据えた十分な検討を行ってください。
DMBOKに基づくチェックリストを用い、企業のデータマネジメント成熟度を測定し、今後の重要な改善ポイントやロードマップをご提言します。