品質保証などというと設備機器の設計や開発、製作部門は堅苦しいことのように感じるかもしれません。最近はユーザ(顧客)が監査と称して、設備機器やシステムの設計や開発、製作現場を確認しに来ることが増えています。
監査では会社概要や組織、責任体制などの確認も行われますが、ここでは設備機器やシステムの設計・開発・製造の担当者や試験担当者が関連する内容に的を絞ってみました。 監査人の観点を通して、これらの品質保証活動の具体的な内容について考え、日頃の活動を見直してみましょう。
監査人は設備機器やシステムの開発工程や検証工程をチェックする場合、現場で下記のような質問をするでしょう。
1. 要求仕様書はありますか?
2. 機能仕様書、設計仕様書はありますか?
3. レビュー活動は実施されていますか?
4. 開発者・設計者以外の第三者がレビューしていますか?
5. 開発・設計・製作を実施するための標準や基準はありますか?
6. 開発・設計・製作標準や基準が適用されていますか?
7. 設計図書はメンテナンスが容易になるように必要な情報が書かれていますか?
8. 設備機器と開発・設計、製作図書をみせてください。
(関連図書を見せると上記質問の確認がある。)
9. 要求仕様は全てテストされていますか?
10. テストにはどのような種類がありますか?
11. テストはどのように管理されていますか?計画・記録・報告はありますか?
12. 予期せぬ故障や異常に対してはどのような対策が取られていますか?
13. その対策は検証されていますか?
14. セキュリティはどのように確保されていますか?
15. テストにおける問題点はどのように管理されていますか?現場からは適切な回答が得られていますか?
監査時に、回答者が注意すべき項目をまとめてみました。
これらを念頭において、どういう答えが必要かもう一度考えてみましょう。
設備機器製品の品質を確保するために、品質計画書が作成されます。開発・製造のバイブルにあたるものです。
ここでは設備機器の開発工程・(設計から製造まで)及び検証工程(下記試験)に必要な活動、設計製造工程、手法、手順、作成図書、試験検査方法、出荷判定、問題点管理、変更管理、委託管理、教育などが規定されています。プロジェクト計画も含め品質プロジェクト計画とされる場合もあります
品質はプロセス(開発工程)で作られます。
製品の善し悪しは最終製品の試験結果で決まるものではありません。
開発工程が適切に管理されていることが重要です。また検証工程ももちろん重要です。従って設計、製造や試験の段階において適切な設計、開発。製造、試験が行われることはもちろん、これらをレビューする必要もあります。
適切な管理とは承認された計画に基づき、定められた手順に従って、定められた担当者が作成し、承認者が承認することをいいます。これは設計、開発、製造の手法や環境を問わず、共通して言えることです。
品質保証活動には客観的な証拠、すなわち文書と記録が重要です。
文書化(ドキュメンテーション)とはドキュメンタリーという英語でわかるとおり、実際起きたことの記録という意味が含まれます。すなわちドキュメンテーションとは証拠文書の作成といった意味を含みます。品質保証で重要なのはこの意味での文書です。
従って証拠文書である以上、誰がいつ作成し、承認あるいは何をどのように変更したという事実がわかるように作成しなければなりません。PDCAサイクルに則り、計画、実施、チェック、是正などの活動は文書化と記録により維持する必要があります。
要求には機能的、技術的要求の他、非機能の要求、法規制適合も必要です。
要求は要件とも呼ばれます。要求仕様書は通常、ユーザ(顧客)が作成し、提示します。ただし、具体的に開発を進めるために、ユーザと協力して要件定義を決める場合が多いものです。ユーザ要求仕様を設備機器の実現のために供給者が作成するのが機能仕様、設計仕様です。なお文書で明示的に提示されていなくても、暗示的な要求も要求事項です。
例えば、設備機器が停電にあってメンテナンスチームが機器の状態を調査する場合があります。
この時電源が勝手に復旧、機器が動き出した場合、人に危害が加わるおそれがあります。電源を自動的に復旧させない仕様は暗示的な要求です。なお全ての要求事項は試験によって検証される必要があります。
試験検査の目的は設備機器やシステムが意図したように動作することを確認することでしょうか?それだけではありません。例えば入力や出力が規定のレンジを外れた場合の設備機器やシステムの挙動などはその例です。プロセス制御では空気源や電源が落ちた場合にも設備機器が安全側に作動する用に設計されているのが一般的です。また異常事対応には警報やインタロックが用意されていると思います。
試験検査は設備機器やシステムが意図しない動作をするかどうかを見つけ出し、それを是正する作業です。
ヘルスケア業界ではチャレンジテストが要求されますが、過負荷を与えてシステムの挙動を調べるなどはその例です。このような考え方はハードウェアにもソフトウェアにも適用されます。
なお、ユーザの要求事項は全てテストにて確認する必要があります。
ヘルスケア(医薬品、医療機器製造)業界ではバリデーションと呼ばれる活動が要求されます。
これは上記の品質保証活動(各種仕様書作成から試験検査、納入)に加えて、ヘルスケア企業が公的機関(厚生労働省、米国FDA、EU PIC/Sなど)からの法規制要求である製造規範GMPを遵守していることを確認するための活動で、ヘルスケア企業が主体で対応するものです。
ヘルスケア業界のバリデーションは顧客が顧客の品質保証活動の中の各種検証(試験、検査、レビュー、監査など、)を通して、顧客のヘルスケア製品が確かに顧客の要求や意図にかない、運用後も高品質のヘルスケア製品を製造することができると確信するための文書化作業です。
顧客が使用する設備機器やシステムも顧客の要求を満たしている必要がありバリデーションが必要です。設備機器の供給者は先ほどの品質保証活動を実施し、文書化し提出、あるいは提示することで顧客のバリデーション活動を支援することが可能です。
なお、異なる業界では異なる用語が使われるので用語の定義を確認しましょう。
ヘルスケア業界のバリデーションとIT業界のバリデーションは多少異なった意味に使われる場合があります。
リスク評価は最近特にヘルスケア業界で要求される事項です。設計開発工程の全てに使用されます。例えば暗示的要求を明示的にしたり、試験検査の程度を決定したりするのに使用されます。供給者監査もリスク評価の結果により実施されます。
以上、監査員の質問を通して、品質保証活動で要求される日頃の作業を拾い出してみました。
原理原則を具体的に表して、その意味や理由がわかると、日頃の作業の理解の幅が広がることでしょう。
医薬品・医療機器の査察指摘事項と対策
ヘルスケア産業では、品質を確保する活動としてGMPやQMSがあり、これらは法規制の対象ともなっています。
規制当局も含んだ国際標準化の活動においては、医薬品や医療機器に共通して品質システム(品質マネージメントシステム)の重視が明らかな特徴となっていると言えます。