有償支給取引とは、支給元企業が、対価と交換に原材料等(「支給品」という。)を支給先に譲渡し、支給先における加工後、当該支給先から当該支給品が組み込まれている加工品を購入する一連の取引であり、日本の製造業の委託製造業務における一般的な商習慣である。一方、有償支給取引で求める会計処理、法令遵守対応が複雑なため、企業のERPシステム導入時には、難題として挙げられるテーマでもある。
SAP ERPでは、日本の商習慣に基づいて開発されている「有償支給品目を使用した外注(SCC)」ソリューションがある。ECC 6.0で提供されていたが、品目元帳ソリューションとの併用ができないなどの制限があったため、利用を躊躇し、見送りとされるお客様も少なくなかった。
しかし、SAP S/4HANA以降では品目元帳機能の有効化が必須となり、SAP S/4HANA 1610以降に改めて提供されている「有償支給品目を使用した外注 (SCC)」ソリューションは、品目元帳機能と併用できるように改善され、機能利用に踏み切った企業が近年増加している。
本コラムでは、以下の流れで2回に分けて、SAP S/4HANAにおける有償支給機能を紹介する。
・SAP S/4HANAにおける有償支給業務の基本処理プロセス
・有償支給機能の特徴
・有償支給機能利用の業務前提条件
・有償支給機能導入時のよくある課題
図は、SAP S/4HANAにおける基本的な有償支給業務のプロセス全体像である。
プロセス一つ一つについて仕訳例も含めて解説してみたい。
外注品調達が作成されるだけではなく、事前登録されているBOMマスタにより、その外注品を調達するにはどのぐらいの支給品が必要かも計算され、支給先にある在庫数量を考慮し不足分に対する支給予定が作成される。さらに、自社在庫数量を考慮し、支給品の調達先からの調達計画も自動的に作成する。
※マスタの設定次第で、自社を経由せず支給品の調達先から支給先へ直送する数量を、MRPで自動作成することも可能。
支給品調達して自社に到着後、支給先へ支給登録を通して、SAP上の在庫は自社在庫から仕入先在庫へ移動する。自社在庫と区別するため、異なる勘定コードへ振替する仕訳は自動作成される。
※支給先へ直送の場合、調達時の発注入庫時、在庫は直接に仕入先在庫へ計上される。
有償支給品を支給する実績、或いは支給先直送の場合、その発注入庫の実績を参照し、有償支給の未収金計上を実施する。定期バッチによる処理の自動化は可能。
相手勘定の「有償支給高」は、B/S勘定(負債扱い)へ計上のため、収益としては認識しない。
支給先の加工製造後、有償支給品が組み込まれている外注品が完成入庫されると同時に、BOMマスタに登録されている構成数量で、有償支給品の支給先在庫からの消費も自動的に登録される。また、実際使用量に合わせて後追いで調整することも可能。
SAPの有償支給ソリューションでは、有償支給を含む外注の買掛金は「外注加工費分」と「有償支給品買戻対価分」を分けて計上する。
・外注加工費分の買掛金は、通常のMMモジュールの請求書照合処理より計上される。
・有償支給品買戻対価分の買掛金が、有償支給専用の控除可能買掛金計上機能より計上され、支給の未収金計上時に計上された相手勘定の負債も同時に消滅される。
実質支払の外注加工費分は、通常のMMモジュールの調達で計上されている買掛金と同じように支払処理を行う。
SAPの有償支給ソリューションの出来高相殺方式では、外注加工費支払後、同じ発注明細で計上されている控除可能買掛金は、支給時計上された未収金と相殺可能になる。
これに対し、SAP有償支給ソリューションの処理プロセスはどうなっているか?
・支給品の在庫消滅は支給時ではなく、買戻時消滅となる処理プロセスのため、指針上の買い戻す義務がある場合の原則を満たしている。
・未収金計上時の相手勘定は、負債となるB/S勘定のため、収益と認識しない要件にも満たしている。
上記踏まえて、SAP有償支給ソリューションは、買い戻す義務がある有償支給取引向けの機能であると言える。
これに対し、SAP有償支給の出来高相殺機能は、加工費支払済の控除可能買掛金のみ相殺可能の制御はされているため、上記有償支給原材料等の対価の早期決済禁止は守られている。
※ただし、支払期日の自動チェックや、注文変更を自動禁止など上記以外の下請法で制限されていることは、有償支給に限らずSAP標準では実装されていないため、要件がある場合拡張開発が必要である。
同じ「プラント+支給品+支給先」レベルでは、有償支給品と無償支給品を混在してはいけない。
SAP上では、有償か無償かの管理は、「プラント+支給品+支給先」レベルで設定するためである。
ここまで、SAP S/4HANAの有償支給ソリューションを説明してきたが、実際に、導入する際には、様々な課題が発生する。
第2回目は、導入時のよくある課題を取り上げてみたい。
第2回 SAP有償支給ソリューション解説ー導入時の課題 を読む
ビジネスエンジニアリングのSAP事業
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