有償支給取引は、日本の製造業の委託製造業務における一般的な商習慣である。一方、有償支給取引で求める会計処理、法令遵守対応が複雑なため、企業のERPシステム導入時には、難題として挙げられるテーマでもある。
SAP S/4HANA 1610以降に提供されている「有償支給品目を使用した外注 (SCC)」ソリューションは、品目元帳機能と併用できるように改善され、機能利用に踏み切った企業が近年増加している。
第1回では下記の順番で解説してきた。
・SAP S/4HANA有償支給業務の基本処理プロセス
・有償支給機能の特徴
・有償支給機能利用の業務前提条件
第2回の今回は、導入する際によくある課題を3つ取り上げその解決策について考えてみたい。
SAPの有償支給ソリューションでは、有償支給の単価情報は①外注加工費、②有償支給品代金、2つの金額を切り分け、それぞれ異なるカテゴリの購買情報マスタを登録し単価管理する。買掛金計上時も、購買情報と同様に、外注加工費と有償支給品代金はそれぞれで計算することになる(①×数量、②×数量)。
しかし、有償支給の一般的な実務上は、単価契約は上記①②を分けず、有償支給品を含む外注品の購入単価(①+②)、および、有償支給品代金(②)を管理するのがよくあるケースで、注文書と買掛金は、有償支給品を含む外注品の購入単価(①+②)×数量の金額で計算する。
1個当たり小数点がある単価の場合、計算上、四捨五入のタイミングの違いにより、端数のギャップが発生する可能性がある。
B-EN-Gでは、お客様の実務要件の整理、業務改善や拡張開発を含め、ギャップを解決するためのソリューション検討、また移行時単価切分の手順整理などをサポートしている。
前回、SAPの有償支給ソリューションでは、支給時には在庫消滅せず、支給先在庫としてシステム上管理するようになっていることを紹介した。
ここで問題なのは、実質どこで管理しているか、である。正しい会計処理を行うため、また、MRPの調達計画の精度を上げるため、定期的な棚卸を実施することが望ましいのはもちろんだが、しかし、実務上支給された有償支給品は、物理的には支給先において在庫管理が行われているため、支給元企業による在庫管理を導入前に行っていない場合も多い。したがい、システム導入時に業務変更が必要となる。
さらに、棚の増減、責任所掌によって、求める会計処理&対応プロセスが異なるので、パターンごとに、適切な業務プロセスの整理が必要となる。
B-EN-Gでは、有償支給ソリューション導入に伴い、有償支給在庫棚卸の必要性の認識合わせ、棚卸業務を行う際の要件整理及びシステム対応ソリューションの検討をお客様とともに考える場合が少なくない。
SAPの有償支給ソリューションでは、有償支給単価を変更する機能が提供されている。支給在庫がある場合、支給戻し ⇒ 支給金額を管理する購買情報マスタの変更 ⇒ 再支給という流れで実施する必要がある。しかし、実務上旧単価で注文済未入庫の購買発注については、どういう対応が必要かについて、SAP標準シナリオ上では定義されていない。
企業の通常調達業務に合わせて、対応プロセスを検討、整理することが必要である。
また、有償支給から無償支給への切替、または無償支給から有償支給へ切替する場合も同様に、SAPの有償支給ソリューションではマスタを切替する機能が提供されているが、既存注文済未入庫の購買発注伝票については、どういう対応が必要かについては、別途企業の注文業務に合わせての検討が必要である。
この点についても、弊社ではご相談を承っている。
2回にわたってSAP S/4HANAで提供されている「有償支給品目を使用した外注 (SCC)」ソリューションについて、基本処理プロセス、会計仕訳、および弊社導入時によくある課題を紹介した。
思い出すのは、有償支給取引に係る会計処理について、過去に某電機メーカーで多額な有償支給差益を収益認識するという不適切な会計処理が問題となったことである。実務上でもシステム導入時でも非常に悩ましいテーマの一つである。
SAP標準の有償支給ソリューションは、「収益認識に関する会計基準の適用指針」で定められている、「買い戻す義務があるケース」においては、非常に理想的な会計仕訳処理を自動で実現可能で、非常に魅力的な仕組みである。一方で、標準の仕組みを導入するにあたっては、必ず現行業務とのギャップが発生する。このギャップを分析し、標準機能に合わせた業務プロセスを構築するためには、調達、在庫管理、および会計といった複数分野にわたる深い知見が不可欠となる。
弊社には、複数モジュールの知見を持つコンサルタントが多数在籍し、SAP有償支給ソリューションの導入経験をもとに、お客様の実業務を加味した上、導入時の課題検討、業務プロセス整理、そして最適なソリューションを提供できる体制が整っていると自負している。我々は、今後も、お客様の課題解決とSAP S/4HANAの最大限の活用のために、お役に立ちたいと考えている。
ビジネスエンジニアリングのSAP事業
1991年に日本初のSAPパートナーとなり、1993年に国内第一号SAPユーザーへの導入を実現して以来、ERP導入支援を中心にSAP関連事業を推進し、多くのお客様からの信頼を得ています。
SAP S/4HANAだけでなく、予実管理やビジネスインテリジェンスなどを実現するSAC、サプライチェーン計画ソリューションであるSAP IBP等の多彩なラインナップを取り扱い、お客様のビジネスの変革をシステム面からご支援しています。