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コラム

SCM

サプライチェーン マネージメントとは、 そもそもがCPS (CYBER-PHYSICAL SYSTEM) であり、デジタルツイン化である

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前回のコラム「『オムニチャネル化』に対応したサプライチェーンこそが、コロナ禍を乗り切る鍵となる」では、今日の新型コロナによるパンデミックや様々な自然災害等にも対応できるような、「選択しうる情報」を柔軟に選択・変更できるサプライチェーン モデルの重要性を説明した。今回は、現実世界のサプライチェーンをコンピュータ上に展開して、実際の業務に添った流れを構築する=デジタルツイン化における課題について指摘する。

 

サプライチェーンのモデル化とは

 SCM (Supply Chain Management) は、「価値提供活動の初めから終わりまで、つまり原材料の供給者から最終需要者に至る全過程の個々の業務プロセスを、一つのビジネスプロセスとしてとらえ直し、企業や組織の壁を越えてプロセスの全体最適化を継続的に行い、製品・サービスの顧客付加価値を高め、企業に高収益をもたらす戦略的な経営管理手法」 である、と定義される。(米国サプライチェーン カウンシルより)

 つまりサプライチェーンとは、「原材料の供給者から最終需要者に至る全過程の個々の業務プロセスを、一つのビジネス プロセスとしてとらえる」ものであり、それら一連のビジネス プロセス(モノと情報の流れ)を概念化することをモデル化という。(詳細なモデル化の手法は、サプライチェーン カウンシルがSCOR: Supply Chain Operations Reference Model として提唱している。)

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 そして、このような現実世界のサプライチェーンをコンピュータ上に展開して、実際の業務に添った流れを構築するためには、必要部材の納期や数量、部材や仕掛品の置場や置場制限、工程ごと・工程間のリードタイムや生産制約・ルール、また物流におけるリードタイムや物流制約、さらに拠点ごとの在庫数量や安全在庫の上下限値などの様々なモデル上の情報をデータ化し、数値化されたデジタル情報としてコンピュータに理解させる必要がある

 需要やその予測を100%正確に見極めることは不可能である未来に対して、数値化されたデジタル情報によってコンピュータ上に構築されたサプライチェーン上で、未来に対する様々なシミュレーションや計画が可能になるのである。

 

CPS化されたサプライチェーン計画の課題

 現実世界のサプライチェーンをモデル化し、それをCPS化してコンピュータ上のサイバー環境に構築できたとしても、実際の現実世界を表現するためにはさらに重要な課題がある。

 顧客の需要は常に変化(予定外の受注やキャンセル、または数量変更や納期・向け先変更など)する可能性があり、また生産や物流においても予測外の問題(ライン故障、品質低下、部材納期遅延、物流事故、気象変化等による物流遅延など)の発生により、計画の遂行を阻害する事象が数多く発生する。

 つまり、現実の世界では常にサプライチェーン上に変化が発生する可能性が極めて高く、これらの突発的な変化を如何に速やかにCPS化されたコンピュータ上のサプライチェーンに反映するかということが重要になる。

 前回のコラム(「オムニチャネル化」に対応したサプライチェーンこそが、コロナ禍を乗り切る鍵となる)では、「変動しうる情報」と、「選択しうる情報」について述べた。

 一方で、コンピュータ上にデータとして再現した現実世界のモノと情報の流れに基づいて計画を策定し、その計画に基づいて実行した結果をチェック・分析し、その結果の予実乖離に対しての修正を行い、また次の計画に繋いでいく Plan-Do-Check-Adjust のクローズド ループを頻度高く行うことにより現実世界での変化に対し、迅速にそして柔軟に対応していくための仕組みが必要不可欠である旨も述べた。

 そして、今日の新型コロナによるパンデミックや様々な自然災害等にも対応できるような、「選択しうる情報」を柔軟に選択・変更できるサプライチェーン モデルの重要性を説明した。

 これを踏まえ、他律的に変化をする現実世界の情報を如何に迅速に、理想的にはリアルタイムやそれに近い形でコンピュータ上に展開されたサプライチェーン モデルに反映させていくか、ということが極めて重要になるのである。

 しかし、現実は、多くの場合、これらの変化情報に対するCPS化されたサプライチェーン モデル(計画システム)への反映が、受注システムでの夜間バッチ作業完了を待たなければならなかったり、工程の作業実績情報が作業後の工程管理システムへの手入力であったり、さらに場合によっては管理者の承認後にやっとそれらの情報が連携、反映されるなど、多くの待ち時間を要しているのが実情である。

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 日本においてSCMという概念が一般化してきた2000年代に比べると、その後の20年間におけるハードウェア、ソフトウェアの技術は格段に進化してきており、現実世界における変化情報をリアルタイムにデータ化して、瞬時にサプライチェーン計画を策定するサイバー環境(コンピュータ)に送る、といったことは容易に実現できるようになってきている。

一方、製造設備のIoT化や基幹業務システムとのデータのリアルタイム連携化には大きな投資コストや実現までの時間が必要であり、IoT によるインダストリー4.0が提唱されて既に8年ほどが経過している現在においても、未だ広く対応が浸透しきれていないことからも、その難易度を計り知ることができる。

 

サプライチェーン モデルのCPS化とデジタル ツイン化の早期実現に向けて

 達成すべき業務としての「目的」と、それを実現するためのシステムとしての「手段」は、常に表裏一体であり、そのどちらかが欠けても目標を達成することはできない。

そのため、目標に向けた業務目的とその実現手段という一体の仕組み構築においては、如何に効率的な実現手段を検討するかということが求められる。

 上述したように、CPS化、デジタル ツイン化のためのハードウェアやソフトウェアは、今日においては従来とは比較にならないほどに進化しており、仮にCPS化されたサプライチェーン モデルへの必要情報の連携に時間を要するとしても、ひとたび情報が連携されれば瞬時の計画作成、再作成ができる仕組みの構築が可能となっている。

 つまり、現実の世界では常にサプライチェーン上に変化が発生する可能性が極めて高く、これらの突発的な変化を如何に速やかにCPS化されたコンピュータ上のサプライチェーンに反映するかということが重要になる。

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 そしてさらには、 図のようにIoT を活用したデジタルツイン化による CPS としてサプライチェーン モデルを構築(または再構築)することによって、オムニチャネル化にも対応できる柔軟性、即時対応性をも強化することが可能となるのである。

 

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貝原 雅美 氏
貝原 雅美 氏
ワクコンサルティング(株)エグゼクティブ コンサルタント
SAMI コンサルティング株式会社代表取締役
主に製造・流通業向けの生産・物流管理、ERP、SCMの導入・開発・コンサルティングに従事し、その後米国SCM企業のコンサルティング、マーケティ ング、セールスの各ディレクターを歴任。リスク管理、内部統制の外資系日本法人立上げにも参加し、企業に対する内部統制、リスク管理等の支援を行う。
現在は日欧米のグローバルな地域でSCMやS&OP改革、経営・業務改革の支援を行い、また大学・協会・企業での講師なども行っている。

<著書その他>
・日本ロジスティクスシステム協会ストラテジックSCMコース講師
・著書:「戦略的SCM―新しい日本型グローバルサプライチェーンマネジメントに向けて」(共著)(日科技連出版社)
・日本鉄鋼協会、日本OR学会等での講演や、企業内研修講師、企業及び大学向け講演、SCM専門誌向け記事など多数。