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コラム

SCM

パンデミックの今だからこそ、新薬メーカーにおけるS&OPの重要性を考える

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近年の創薬事業は従来の有機合成化学による低分子医薬品から、バイオテクノロジーによる中分子、高分子医薬品へ移行しつつあり、これまで治療手段が少ない、困難とされてきた癌治療、希少疾患や難病などに効力を発揮し始めている。また、新薬メーカーが注力し始めた高分子医薬品の開発により、輸送や保管は一層厳格となってきている。
医療ニーズの複雑化に伴い新薬メーカーの供給体制は大きな変革を求められることとなり、今後、患者一人一人に合った個別化医療の普及や生産体制の変化により、サプライチェーンが重要な経営課題になってくると予想される。将来の課題に備えつつも、目下、グローバルでの研究、生産、供給が常態化しつつある創薬事業において、サプライチェーンは既に多様化している現状と言えるであろう。
これに加え、新型コロナ感染症によるパンデミックの発生により、世界中で医薬品の開発が推し進められ、供給体制、所謂、サプライチェーンの改善は一刻の猶予もない状況になっている。

本コラムでは、創薬事業におけるSCMへの取り組みの背景を紐解きながら、新薬メーカーが今日目指すべきS&OPの仕組み作りとその重要性について述べる。

 

SCMトップ25社に占める医薬品メーカーの台頭

ガートナー社 (Gartner, Inc.) は、SCM (Supply Chain Management) に優れた企業上位25社を毎年選出して発表している。
これは、フォーチュン誌の選ぶグローバル500社中の銀行、保険、証券など金融系を除く約半数の企業(製造、流通、小売など、モノの流れを伴う業種)を対象として、利益率、ROA (Return On Assets)、Cash-to-cashサイクル、在庫回転率などSCM に関連する様々な 評価指標を基に選出される。つまり、ガートナー SCM トップ 25社とは、SCMさらに今日においては S&OP (Sales & Operations Planning) の改革に最も力を入れ、そして継続的に成功している企業とも言える。

 過去においては、これらトップ 25社に選出される企業の多くは小売や消費財企業、PCやネットワークなどのハイテク関連企業、自動車OEM企業、大手化学メーカーなどであった。その後、この10年内にはファスト ファッションのアパレル企業や重電メーカー、酒造メーカーなどもトップ 25入りをし、さらに2020年からは医薬品メーカーの台頭が顕著になってきている。
それまでトップ 25社の常連として、Johnson & Johnson社のみが唯一の医薬品企業として名を連ねてきてはいるが、昨年は加えて新薬開発を行うバイオ医薬品メーカーであるAbbvie社と、同じく新薬・バイオ医薬品メーカーでは最古参でもあるBiogen社が一気にトップ25社入りを果たし、さらに今年2021年には 医薬品メーカーとしてはJohnson & Johnson社、Abbvie社、Pfizer社、Bristol Myers Squibb社の4社がSCM トップ25社に選ばれている。

※以前はAMRリサーチ社が実施していたが、2009年にガートナー社に買収され、以降も継続されている。

 

なぜ今、医薬品メーカーがSCMやS&OPに注力しているのか?

SCMとは本来、モノと情報の流れをサプライチェーンの上流(原材料のサプライヤー)から下流(エンドユーザー)までを一つの連続した業務の流れとして管理し、途中の在庫を適正に保ちつつ、受注-生産-出荷-物流などの各種リードタイムを最短化し、様々な変化(注文、納期、生産、物流など)に柔軟に対応して、業務効率を最大化するための取り組みである。また近年は従来のSCMに加えて、経営に関わる予算とその達成のための事業計画、売上げを達成するための営業に関わる販売計画などとの同期化といった、SCMの発展系ともいえるS&OPへの進化が求められてきている。加えて、市場のグローバル化により、販売ライセンサ等複数の販売チャネルや、販売承認のタイミングを考慮にいれたサプライチェーンの構築、つまり原薬製造拠点/製剤製造拠点の戦略的配置、包装ラインの配置をリージョンのどこに配置するか等の検討業務が常態化してきている。

従来のSCMへの取り組みは、コモディティ商品であるほど、その取り組みが積極的に行われてきた。つまり、コモディティ化した商品ほど競争優位性は総合的な業務効率化によるコスト削減や、納期遵守率向上による顧客満足度によって向上されることになるため、小売や消費財、家電やハイテク機器、ファストファッション企業などが、早期より積極的にSCMへの取組みを行なってきている。

しかし、創薬事業のように、画期的な新薬を開発すればそれにより競争優位性が保たれる業種においては、上市後の量産時におけるSCMへの取り組みや、事業計画と同期化するS&OPへの取り組みが後回しになってきた感が否めない。現在の医薬品メーカー、特に創薬事業においては、基礎研究から量産までの流れや、原薬製造から梱包、出荷までの流れが多国間に跨る業務となる場合が多く、今後も、新薬における海外企業との共同研究や、連携した製造、出荷などのグローバルな業務は益々常態化し複雑化していくことは明白である。

そして、現在のパンデミックである新型コロナウイルスに対するワクチン状況を見ても、ワクチンの使用期限を管理しながら適正な在庫を保つため、如何に使用期限切れの廃棄を最小化しつつ、しかも欠品を起こさずに確約した納期通りにワクチンを供給するのか、そしてそのための物流やリードタイムをどう管理・選択するのか、さらには需要を満たすために必要な供給量のための製造能力の試算や、必要に応じた製造能力の増強(ラインの増設や他国での製造など)を如何に計画するのか、最終的にはそれらの計画により売上がどうなるのか、といったSCMやS&OPの仕組みが非常に重要になってくるのである。

新型コロナウイルスによるパンデミックは、まさに今日我々全人類が直面している現象ではあるが、新型コロナワクチンに限らず、新薬が画期的で人類に対して喫緊であればなおさら、創薬事業におけるSCMやS&OPの仕組み構築は新薬メーカーの取り組むべき最重要課題であるといっても過言ではない。

 

新薬メーカーに求められるS&OPの仕組み

通常S&OPに求められる機能や仕組みは、モノと情報がサプライチェーン上を流れていく業態であれば、業種を問わず基本的には同じであり、新薬メーカーにおいても例外ではない。つまり、事業体としての一貫したPDCA (Plan-Do-Check-Adjust) を高頻度で実現する仕組みの構築である。

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さらに新薬メーカーにおいては、特に以下の2点の課題を解決する仕組みが重要になるものと思われる。

●安全に使える使用期限のある医薬品に対して、在庫を考慮しながら出荷時期のタイミングを製造と連動し、その量と金額が一つの計画上で立案でき、予算額に対する増減が示される仕組み。
●グローバルなサプライチェーン上において、モノと情報の流れとその状況が可視化でき、状況に応じた複数の計画シナリオをシミュレーションによって作成することによって経営判断に繋げることができる仕組み。
 
これら二つの内容については、次回以降のコラムで順次説明をしていきたい。

第2回に続く

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貝原 雅美 氏
貝原 雅美 氏
ワクコンサルティング(株)エグゼクティブ コンサルタント
SAMI コンサルティング株式会社代表取締役
主に製造・流通業向けの生産・物流管理、ERP、SCMの導入・開発・コンサルティングに従事し、その後米国SCM企業のコンサルティング、マーケティ ング、セールスの各ディレクターを歴任。リスク管理、内部統制の外資系日本法人立上げにも参加し、企業に対する内部統制、リスク管理等の支援を行う。
現在は日欧米のグローバルな地域でSCMやS&OP改革、経営・業務改革の支援を行い、また大学・協会・企業での講師なども行っている。

<著書その他>
・日本ロジスティクスシステム協会ストラテジックSCMコース講師
・著書:「戦略的SCM―新しい日本型グローバルサプライチェーンマネジメントに向けて」(共著)(日科技連出版社)
・日本鉄鋼協会、日本OR学会等での講演や、企業内研修講師、企業及び大学向け講演、SCM専門誌向け記事など多数。