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コラム

SCM

医薬品に求められるS&OPとしての変更管理とグローバル サプライチェーン可視化とは

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前回のコラム「新薬メーカーに今こそ求められるS&OP視点の在庫とは」では、固定リードタイムによるサプライチェーンの冗長化による在庫への影響と使用期限や金額を考慮した在庫の適正化、さらにS&OPとして最も重要となる計画上の財務を考慮した経営の意思決定のための迅速な複数シナリオ作成の必要性を説明した。また事業体として高頻度にP-D-C-Aを回していくためのS&OPの仕組みととして、APS (Advanced Planning System)の有効性にも言及した。

今回はシリーズの最後として、医薬品に求められる変更管理とグローバル サプライチェーンの可視化の考え方をS&OPの視点から述べる。

 

医薬品におけるエンジニアリングチェーンとしての変更管理

前回のコラムでは、計画を作成する際に使用する各リードタイムを、常には必要ではない余裕としてのバッファを持たせた固定リードタイムで扱うことにより、それが結果として過剰在庫を発生させ、そしてサプライチェーンの冗長化につながり、さらには迅速な意思決定のための高頻度なP-D-C-Aサイクルにも影響を及ぼすことを説明した。そしてそのための有効な手段として、可変リードタイムを使用して実際の状況を反映した計画を複数のシナリオで迅速に作成し、事業体として頻度高くP-D-C-Aを回していくための APS (Advanced Planning System)の有効性についても言及した。前々回からのシリーズ最後となる今回は、医薬品に求められる変更管理とグローバル サプライチェーンの可視化に関して、S&OPの視点で考えていきたい。

医薬品に限らず全ての製品は、それらの企画や製品化のための開発と設計、量産の立上げと量産への移行、そして上市後の量産と販売、さらには販売後のアフターフォローといった、いわゆる製品のライフサイクルの流れとなるエンジニアリングチェーンが存在する。そして一方のサプライチェーンは、原材料の仕入れから製造を経て販売に至る各工程毎と各工程間の物流を含む流れとなる。エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの関係は、エンジニアリングチェーンを上から下に向かう縦軸の流れ、サプライチェーンを左から右に向かう横軸の流れとして表すことができ、これら2つの軸の交点が生産(量産)過程となる。そのためエンジニアリングチェーンにおいて設計変更が発生すると、互いの交点である生産に直接影響を与えることになるのである。

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医薬品においても、このような製品仕様や製造仕様に対する変更の発生は当然あり得ることであるが、医薬品の場合には特に、製造や品質に関する変更は規制当局に対しての事前通知や事後承認が義務付けられており、またそのプロセスは各国・各地域でのレギュレーションの違いもあるため、サプライチェーンは常にエンジニアリングチェーン上の変更管理プロセスとの密接な連携が必須となってくるのである。

エンジニアリングチェーンとサプライチェーンを同期化させるためのS&OPの位置付け

従来のSCMの考え方や仕組みは、主にその対象は上述の左から右に向かう横軸の流れに焦点が当てられており、仮に製品仕様や製造仕様に対する変更が必要になった場合には、エンジニアリングチェーンからの変更された基準情報として、計画を作成するためのサプライチェーン モデルに入力し直すという方法が一般的であった。つまり、変更管理のプロセスであるエンジニアリングチェーンと生産のプロセスであるサプライチェーンは密に同期化されておらず、そのため変更による各拠点・各工程での在庫への影響や、通知・承認のために必要となる待ち時間による納期への影響などを考慮しながら、P-D-C-AのA=Adjust(調整)のための複数の事前シナリオの作成が不十分であったとも言えるのである。

前回・前々回のコラムでは、経営と営業が使用する言語である「金額」と、調達・生産・物流が使用する言語である「量」の常時相互変換の必要性を説明したが、さらには変更管理のためにはエンジリングチェーンとサプライチェーンの同期化もS&OPの重要な役割であることを強調しておきたい。そのためS&OPプロセスにおいては、SCMの需給調整会議やPSI会議と呼ばれる営業と生産が主体となる会議体の部署に加えて、さらに企画・開発・設計・物流・財務部門の参加が必要になり、上記のような変更管理による今後の計画への在庫や納期の影響や、そのための複数の調整シナリオの検討と決定を行うことになるのである。

S&OPにおける未来を見るためのサプライチェーンの可視化

一方、SCMやS&OPの位置付けは、現在から未来に向かってエンジニアリングチェーンと同期化して生産・調達や物流・販売を計画していくことにある。つまり、未来のある時点のある拠点における在庫の量と金額や、未来のある時点における売上がいくらになっているのかなど、常に未来を把握するための予定を考えることにある。そのためここでいうサプライチェーンの可視化とは、未来に対してグローバル サプライチェーン上の調達や生産、出荷日や拠点ごとの在庫、そしてさらには物流や販売といった状況を見えるようにすることである。もちろん残念ながら、未来に起こる現実を今現在において100%正確に見ることは不可能だが、ここまでに述べてきたようなSCMやS&OPの仕組みを構築し、さらにはその仕組みの成熟度を継続して高めていくことにより、未来に起こる現実に近づけることは可能であり、SCMやS&OPが計画系の領域と言われるのはそのためでもある。

S&OPの視点でグローバルにサプライチェーンを可視化するということは、未来の企業活動や経営を可視化することであり、以前に比べて将来の予測や予定を変えてしまう要因が非常に多い現代においては、医薬品をはじめとする各業種の企業がSCMやS&OPに取り組み続けていることも容易に理解できるのではないだろうか。

なお、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの連携は部門を跨ぐ必要があるため、仕組みだけではオペレーションに落とすことが難しいという課題を抱えている企業が、特に日本においては非常に多いのが実情である。この日本企業特有の課題に対して強いて言うならば、組織変革や経営の意識改革、トップメッセージの重要性など、組織文化を変えていくための取り組みは必須であり、そしてまたこのような変革もまた、S&OPの目指す大きな目的の一つなのである。

最後に、日本の医薬品企業がSCMトップ25に選出される日が来ることを切に願いつつ、そのために当コラムが少しでもお役に立てれば幸いである。

 

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貝原 雅美 氏
貝原 雅美 氏
ワクコンサルティング(株)エグゼクティブ コンサルタント
SAMI コンサルティング株式会社代表取締役
主に製造・流通業向けの生産・物流管理、ERP、SCMの導入・開発・コンサルティングに従事し、その後米国SCM企業のコンサルティング、マーケティ ング、セールスの各ディレクターを歴任。リスク管理、内部統制の外資系日本法人立上げにも参加し、企業に対する内部統制、リスク管理等の支援を行う。
現在は日欧米のグローバルな地域でSCMやS&OP改革、経営・業務改革の支援を行い、また大学・協会・企業での講師なども行っている。

<著書その他>
・日本ロジスティクスシステム協会ストラテジックSCMコース講師
・著書:「戦略的SCM―新しい日本型グローバルサプライチェーンマネジメントに向けて」(共著)(日科技連出版社)
・日本鉄鋼協会、日本OR学会等での講演や、企業内研修講師、企業及び大学向け講演、SCM専門誌向け記事など多数。